【パリ=小笠原拓郎、青木規子】17年春夏パリ・コレクションに、官能的なムードやフェティシズムの流れが広がっている。前シーズン以上に女性らしさが強調され、シーズンを象徴する要素の一つになりそうだ。キーカラーは赤や紫、ピンク、素材はサテンやスパンコール。コルセットやランジェリーディテールも多く出ている。
フェティシズムの要素を取り入れて…バレンシアガ
80年代のヒット曲のラウンジミュージックにのせて、バレンシアガが構築的なフォルムを描く。冒頭に現れたのは、デムナ・ヴァザリアが得意とするスクエアショルダーのコートスタイル。大きく張り出した肩だが、厚みはなく薄いのがこの春夏の特徴。スクエアショルダーのブルゾンは、サイハイブーツにラップスカートとコーディネート。スパンデックスの使い方にも特徴がある。
レギンスのようなストレッチブーツやマスキュリンなスーツストライプをスパンデックスでパンツに仕立てている。新鮮なのはギャザーをサイドに入れて斜めにドレープを流したトップ。マスキュリンとフェミニンのバランスでは、レトロな花柄をボリュームのあるワークベストと組み合わせる。キーワードとなったのは「フェティシズムとクチュールの深い関係への探検」。ラバーのフード付きコート、エアクッションのようなパッテッドベスト、エナメルのブラックコートといったアイテムもどこかフェティッシュな匂いをはらんでいる。
ロエベは、洗練された大人の女性をイメージしたリラックス感のあるラインを見せた。前シーズンの都会的なスタイルから発展させて、サマーハウスで過ごすための優しいホームウェアのような雰囲気を取り入れている。ジョナサン・アンダーソンが得意とする縦長のAラインのシルエットに、ロエベらしいハンドクラフトの技術とコルセットのようなディテールを加えていく。
ベースとなるのはベージュからブラウン、黒にかけてのナチュラルカラー。リネンの素朴なタッチとレザーのコントラストを利かせたスタイルが中心となる。ドレスの襟元にストリングスを入れてギャザードレープを作り、裾はハンカチーフヘムで動きをつける。縦長のシルエットを強調するのは縦の切り替えやフルイドライン。セーターの袖にもフリンジを何段も重ねる。レザーで作ったコルセットのようなベルトとユリの花のブレスレットがアクセントとなる。
コムデギャルソンの体を覆い隠すボリュームスタイルが、圧倒的な迫力で見る者に迫る。黒とネイビー、赤、タータンチェック、ベルベットとギャバジンの組み合わせ、ドット柄、大きな丸い襟。その色使いや柄、素材の組み合わせが、とてもコムデギャルソンらしいコレクション。
そう考えてみると平面のドレスは、12年秋冬の2Dの平面のドレスを3枚重ねたようにも見え、何枚ものドレスをくっつけたボリュームドレスもかつての半身のコレクションを思い出させる。最後に見せたコクーンシルエットのドレスは、襟も袖もただの立体のようにボディーにくっついたもの。服という概念を抽象化しつくした結果、残ったコムデギャルソンという服の象徴のようにも思えてくる。テーマは「ディス・イズ・コムデギャルソン」。
ジュンヤワタナベからの招待状は三角錐(すい)に折りたためるもの。ここ数シーズンの折り紙や工作からの展開かと思いきや、ショーでは見事に裏切られた。轟音(ごうおん)の中、登場するのはダークなメイクと濡れてとがったヘアスタイルのモデルたち。やはり三角錐のパーツを重ねたアウターを身にまとってはいるが、これまでのような工作のテクニックを見せるのではなく、荒々しいパンクスタイルのスタッズとして登場している。
透け感のあるナイロンの三角錐のパーツは、軽くていろんなアイテムに重ねられる。スラッシュ入りのレギンス、花柄ドレス、スポーティーなナンバリングのTシャツ、様々なアイテムと三角錐のアウターを組み合わせる。おどろおどろしいメイクのせいでとがって見えるが、この三角錐パーツはいろんな服と重ねるだけで主張ができる便利なアイテム。何より、スクールTシャツのような柄のスウェットドレスとミリタリーコートの組み合わせなど、どこかグランジな気分が楽しい。グラフィティーを描いたトレンチコートにも、そんな自由な空気を感じることができる。
イッセイミヤケは自然界の小宇宙ミクロコズムをテーマに、自然との距離が近いトライバルなムードをコレクションに乗せた。軽やかなエプロンドレスを彩るのはトロピカルフラワーのように鮮やかな幾何学モチーフ。あらゆる素材を自由な形にカットして熱で貼り付けることができる新素材「カット&スティック」をボンディングして、張りのあるフォルムを作った。特殊なのりをプリントしてプリーツ状の凹凸を作る「ベイクドストレッチ」は進化し、ジグザグやドットが連なる複雑な民族柄を表現した。伸縮するプリーツが、スポーティーなプルオーバーやテーパードパンツをより軽やかに見せる。(写真=大原広和)