百貨店に行くと、創始者の名前を冠したファッションブランドが多くあります。そこには、ヨーロッパのファッションが持つ歴史を感じることができます。一方、近年は創始者の名前だけでなく、造語やコンセプトを表す言葉を使うものが増え、ブランド名の付け方は多様化しています。
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名前かコンセプトか
私が学んだアントワープ王立芸術アカデミーでは、自分自身の名前をブランド名にするデザイナーが主流でした。アントワープ・シックスは全員が自身の名前をブランド名にしており、その後に続くデザイナーにも同じ気風があります。
アントワープに個人名のブランドが多いのは、ブランドを固定されたコンセプトとして捉えるよりも、自分自身の視点を通して世界を解釈し、デザインとして提示する場と捉えているからではないでしょうか。
現代のブランド名には、ひねりが利いているものや、由来を調べると面白いもの、ブランドの世界を感じられるものが多くあります。創始者の名前をブランド名にすれば、特定の意味に縛られることがなく、ブランドの方向性が変化しても受け入れられる柔軟さがあります。
一方で、コンセプトや哲学を含んだ言葉をブランド名に選ぶと、設立した時点から、考え方やブランドの世界を伝えやすくなります。名前そのものがブランドの方向性を示す役割を持つからです。
服作りよりも前に
ブランド名は、単なる言葉ではありません。織りネームとして服に取り付けられ、文字の意味だけでなく、字面や響き、グラフィックとしての見え方まで、服そのものの印象にもそれを着る人にも大きく影響します。着るたびに目に入るものでもあります。
だからこそ創始者は、服作りよりも前に言葉と向き合うのではないでしょうか。私の周囲でも、ブランド名を決めるのに1カ月から1年を費やしたという人は少なくありません。悩み抜いた末に自分の名前を選ぶ人もいれば、自分自身の考えを投影した言葉に決める人、造語を生み出す人もいます。
服やコレクションは半年ごとにアップデートできますが、ブランド名はなかなか変えにくいものです。まだ服を作っていない段階で服以上のことを決定する。これからの活動や「世界観」を想像しながら名前を決めることは、自分のブランドの未来を思い描く作業でもあるのかもしれません。
デザイナーのインタビューや文章を読んでいると、言葉の選び方に感嘆することがあります。そこから、その人の考え方や人間性が見えて、デザイナー自身を好きになることもあります。言葉が、その人の作る服に興味を持つきっかけになるのです。デザイナーが自分を表現する上で使えるものは、服だけではありません。使う言葉にも表現力があり、時に服以上の説得力や影響力を持つことがあります。
ブランド名は、ブランドの世界を伝える最初の言葉です。そこに込められた意味や響きはブランドの方向性を示し、生み出される服や活動によって、さらに意味を積み重ねていきます。ブランド名は最初にして最大のブランディングの一つだと私は考えています。

