《連載 次代への襷》③ ミキモト装身具 (本紙1月9日付け)
2013/06/16 21:06 更新
繊細な金属音の響く緊張感のあるアトリエ。就業時刻を過ぎても作業に没頭するのは、入社4年目の今野琢也さん。JJAジュエリーデザインアワードに向けた作品作りだ。入社以来、量産品の担当を経て、現在は「逸品」と呼ばれるハイジュエリーの製作を担当している。小さい頃からものづくりが好きで、学生のころには独学で彫刻作品を作っていたという根っからのクラフトマンだ。
100年を超える歴史と、ジュエリー業界トップレベルの技術を誇るミキモト装身具。同社は「日々の作業だけでは自分の立ち位置が分からなくなる。外の職人とも競うことが技術の底上げになる」(飯田敏夫取締役工場長)と、社を挙げて外部コンクールへの参加を奨励し、毎年挑戦者を募っている。材料費は全て会社が負担し、選ばれた人材は存分に腕を試すことができる。休日も使ってのめり込んだ結果、今野さんの作品はプロ部門の優秀賞に選ばれた。しかも「自分に試練を与えるため」と、貴金属装身具製作技能検定1級の試験勉強と同時並行だった。「まだまだ先輩の足元にも及ばないが、自分が今できることが確認できた」。
今野さんのように、同社に集まるのは、卓越した技術と歴史に憧れを持つ生粋の「ものづくり好き」だ。彼らがとことんものづくりに打ち込める環境と、やる気を後押しする教育体制が、「マニュアル化できない技術の継承」を支えている。
原型作りを担当する清水大悟さんも「世界に通用するトップレベルの技術を学びたい」と入社した一人。「若手とベテランが出来る限りセットで仕事に携わり、細かくフォローしてもらえる体制があるので、”目で見て盗め”と言われる技術が身に付く」と話す。今年で入社11年目。市場調査も兼ねて海外のジュエリーショーに出向きながら、昨年はティアラを3台手掛けるなど「他ではできない経験を多くさせてもらっている」。
20年で一人前と言われる職人の世界ではまだまだ若手だが、「自分が最初に作った原型を見ると、”ひどいな”と思う」というのは成長の証しだ。夢は「この人に任せれば間違いない、と言われるような技術を身につけること。自分の師匠のような職人です」。
【企業メモ】創業=明治40年4月1日▽本社所在地=東京都目黒区▽事業内容=貴金属装身具及び宝飾品の製造、卸販売。ミキモトの製造部門を担うグループ会社