【どう作る産地の未来㊦】備中・備後 消費者へアピール

2019/11/04 06:29 更新


 岡山県と広島県にまたがり、デニムの一大産地である備中・備後産地。国産デニムのほとんどを生産するが、多くのテキスタイル産地と同様に、一般消費者の認知度は低かった。しかし、最近では多くの企業で前に出る動きが活発になってきた。製品化や連携が進み、消費者や地域住民に対するアピールが盛んになりつつある。

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産地内で製品まで完結

 福山市を中心とした備後地域の産地組合である広島県織物工業改善組合の生産量は18年に3137万平方メートルで前年比15%減。17年は前年比17%増、18年は落ち込むなど、リーマンショック以降増減を繰り返している。

 ジーンズ需要も停滞し、従来のような下請けだけでは事業継続が難しくなるなか、消費者へのアピールを強めようと製品化が進む。特に備中・備後産地は縫製企業も多く集積。18年には、織布や洗い加工、縫製など関連企業10社が参加してファクトリーブランド「福山ファクトリーギルド」(FFG)が立ち上がり、広がりを見せている。

福山駅前には市内製造業者の製品を販売するショップ「ザ・フラッグシップス」もできた

 FFGはプロジェクトとして地域住民へのアピールにも携わる。神辺町商工会議所青年部が主催し、フジグラン神辺店で開かれた市民参加型のファッションショー「かんなべガールズコレクション」に衣装を提供。幹事会社のNSGの名和史普社長がトークショーに出演し、FFGの紹介や、福山でデニム生産量が多い理由などを語った。会場には多くの市民が駆けつけ、車が渋滞して中に入れないほどのにぎわいを見せたという。

 活発な製品化の背景には、産業支援拠点「福山ビジネスサポートセンターFuku‐Biz」(フクビズ)の存在も大きい。小売りやアパレルといった経験豊富なアドバイザーが、マーケット視点から物作りをアドバイス。地域内連携の触媒としても機能している。

 また、福山市が中心となって始まったPRプロジェクト「備中備後ジャパンデニムプロジェクト」では、その一環としてセレクトショップ「パリゴ」を運営するアクセ(広島県尾道市)が、備中・備後地域のデニムを使い、製品ブランド「JAPAN DENIM」(ジャパンデニム)を立ち上げ、成果を上げている。

 多くのデニム関連産地企業が集まる備中産地の岡山県井原市でも、井原被服協同組合が運営する「井原デニム」が今年に入り地域団体商標として登録されるなど、打ち出しを強めている。駅前にある井原デニムストアは17年のリニューアルを機に販売が伸び、テレビをはじめ各種メディアに取り上げられるなど、知名度が向上。継続的な活動で、地域住民や一般消費者の認知は着実に根付いていくはずだ。

異業種連携でデニムを

 ジーンズ需要が伸び悩むなか、異業種連携も重要なキーワード。デニムの可能性を広げようと積極的に取り組んでいるのがカイハラだ。これまでも靴やスポーツウェアといった分野に加え、ホテルの内装、デニムの自動車などを手掛けており、「デニムのソリューション企業」を目指している。

 異業種連携は、産地内でも広がってきた。11月2、3日には福山市と府中市の広域オープンファクトリーイベント「瀬戸内ファクトリービュー」が開かれる。繊維事業者に加え府中市の家具事業者などとも共同でオープンファクトリーを実施するもので、産業観光としての可能性も出てきた。

 繊維産業は地域の文化や経済にとって重要な資源だが、当事者は「斜陽産業だから」と悲観的に将来を見据えがちだ。しかし、工場見学などコト体験に対する興味や「作り手の顔が見える」透明性など、物作りへの関心は高まっており、産地をアピールするチャンスともいえる。SNSやクラウドファンディングなどの広がりも追い風だ。

 製品化や異業種連携、産業観光など時代に合わせた在り方に変化していけば、これからも必要とされる産業となっていくはずだ。

(繊研新聞本紙19年9月25日付)



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