【この技術がすごい①】YKKとJUKIが共同開発 テープのないファスナー

2020/05/02 06:28 更新


 YKKとJUKIは昨夏、テープのないファスナー「エアリーストリング」と専用ミシンを共同開発した。ファスナーと工業用ミシンのそれぞれで世界のトップを走る両社がタッグを組み、縫製工程の簡略化とアパレル製品のデザインの幅の拡大の二つを実現した。

 「あって当たり前と思われていたテープをなくした革新」が評価され、日本インダストリアルデザイナー協会による「デザインミュージアムセレクション」でゴールドセレクション賞を受賞するなど、各方面で高い評価を得ている。

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◇縫製産業を助けたい

 通常のファスナーは、「エレメント」(かみ合わせの歯の部分)、「スライダー」(引き手)、エレメントを植えつける布部分の「テープ」の三つで構成する。アパレル製品に縫製するには、テープと生地をミシンで直線縫いにして、最低でも表と裏の2回縫う必要がある。

 一方のエアリーストリングにはテープがない。歯と歯がひもでつながった状態のエレメントを生地に沿わせ、電子千鳥縫いミシンをベースにした専用ミシンでジグザグ状に一気に縫製する。生地にエレメントをくくりつけるようなイメージで、縫製は1回で済む。専用ミシンはエレメントと生地を同期させて確実に送る機構があるほか、生地の種類に応じた適切な送り量や縫いピッチをパネルで設定できる。

 「熟練工が減っている縫製産業を、技能に依存しない装置を提供してサポートしたい」といい、すでに中国の縫製工場で活用されており、アジア全域にも広げる。

通常のファスナー(上)と「エアリーストリング」
専用ミシンでエレメントを生地に直接縫い付ける

◇すっきり、滑らかに

 テープをなくすと、アパレル製品のデザインにも変化が生まれる。ファスナーと生地の一体感が生まれるため、すっきりとした印象を出すことができるからだ。ファスナーや縫い糸の色を際立たせることも可能になる。開閉動作の操作性も滑らかで、着心地の良い服の追求にもつながる。

 まずは「スポーツやアウトドアの中・軽衣料用途」(YKK)での使用を想定している。薄い機能素材の生地と従来のファスナーを縫製する場合に発生することもあった、テープが透けやすい、ごわつく、しわになるといった課題を解消できるからだ。ポケッタブルの商品にも適している。

 すでに採用実績があり、消費者の手にも渡っている。ゴールドウインの「ザ・ノース・フェイス」は19~20年秋冬商品で同ファスナーを使ったダウンやフリースジャケットを販売した。

 YKKとJUKIは17年1月から、それぞれの技術・知識を活用したミシンやファスニング製品を開発している。YKKは20年度に「新たなガーメントデザインを発表する」としており、さらなるイノベーションが期待される。

 ファスナーは1891年に米国で靴ひもを結ぶ煩わしさを解消するため開発されたものが起源とされる。100年以上たった今もなお、進化を続けている。

「ザ・ノース・フェイス」の商品で採用された

(繊研新聞本紙20年3月17日付)



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