レイヤードな味わいとは?(宇佐美浩子)

2020/02/06 06:00 更新


恒例の「豆まき」も無事終了し、めでたく立春を迎えると、いよいよ2020年が始動した感がする。

言うなれば「新年を2度祝ったかのよう」とも…

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そこで、今回の「CINEMATIC JOURNEY」は、いくつかの共通項から成る多重構造的スタイリングにも似た「レイヤードな味わいとは?」という、やや意味深なタイトルでtake off!

まずは、自由に衣服を着替えることにより多様に変身を遂げる世界的アーティスト、森村泰昌による「美術館で映画鑑賞?」的話題から。

1階「ギャラリーⅡ」展示風景より

おそらくアート好きな方ならご存じかと思うのですが、過去2度にわたる展覧会をはじめ、常設インスタレーションも展示されるなど、作家とは何かと縁ある原美術館を会場に、4月12日まで開催中の「森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020-さまよえる日本の私」展では、展示作品に対する理解をより一層深めてくれる1時間ほどの映像作品が、なんとも濃厚な味わいで後を引く。

あいにく既に申し込みが終了となってしまったレクチャーパフォーマンス「エゴオブスクラ東京2020バージョン」は、なんと作家自らレクチャーをしてくれるという贅沢な「カツベン」風。

「さすが!偉大なる芸術の中に、❝チャチャチャ❞と根付いている大阪人的笑いのツボ!!!」とは、筆者の弁。

2階「ギャラリーⅣ」展示風景より

ちなみに本展記者会見で耳にした、いくつもの心に響く作家の発言を少しばかりシェアしたく。

❝最初に作品を創作した時のヒラメキから、時を重ねる中で常に考え、自身で編集し、同じ事柄を広げたり、深めたり、他の表現方法を用いたり…
私なりに解釈し、その時代に向けてのメッセージを送る。
芸術は批評精神がないと価値がないと思う。少し離れて見てみる、いわば冷めた熱狂が、芸術家にとって大切な事だと思う❞
記者会見にて語る森村泰昌氏
❝大きな意味で変わり目である。現代という時代が…❞

という作家のコメントに思わず頷いたのは、「さまよえる、もう一人の私」こと筆者であった(笑)

というわけで、多重構造的スタイリングにも似た「レイヤードな味わいとは?」をテーマに巡る「CINEMATIC JOURNEY」。

続いてご紹介するシネマも、なかなかのツワモノぞろい!


『グッドライアー 偽りのゲーム』というタイトルからして意味深な香りが漂う本作は、数えきれないほどの受賞歴を誇るイギリスの名優、ヘレン・ミレンとイアン・マッケラン。

プラチナ色に輝く競演は、人は誰しも各人各様の深遠なる人生の歴史のページがあり、その一部をのぞき見するかのようなストーリー展開に、スリリングな高揚感に浸っていく、まさに大人のゲームを視覚として共有する作品とも言える。


一見したところ世間知らず風資産家の未亡人。対する老紳士風を装うのは熟年詐欺師。

けれど前述の作家、森村泰昌のコメントにも通じるのだが、

❝真理や価値や思想というものは、(中略)いくらでも自由に着替えることができるようなもの❞

なのかもしれない。

そして最後までスマートなヒロイン役のヘレン・ミレンに、今回もまた拍手を送りたくなるだろう。


『グッドライアー 偽りのゲーム』

2月7日よりロードショー

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「レイヤードな味わいとは?」をテーマに巡ってきた今回の「CINEMATIC JOURNEY」。実はここまでの登場人物や組み合わせには、ある共通項がある。

まず国籍の多様性、そしてまた誰もが受勲者であること。そうした流れから、年末にもご紹介した『007』シリーズ25作目の公開が今春控えている中、日本が舞台になった作品『007は二度死ぬ』があったことを思いだした。

なぜなら、鹿児島県内のいくつかの場所で撮影された中、秘密基地がある設定で登場した霧島市。そこには日本で最も歴史の深い国立公園や食文化があり、それらの継承活動などにも注力されていると知ったから。

中でも今回のキーワード「受勲者と国籍の多様性」という2語に該当する人物が、「ゲンセン霧島」とネーミングされたガストロノミーブランド認定制度の審査員も務めているという。

彼の名は、ドミニク・コルビ。

パリのグランメゾン「ラ・トゥール・ダルジャン」の副料理長、そして東京店では若干28歳で総料理長を務め、以来四半世紀ほど日本を拠点に活躍を続け、近年では「フレンチ割烹」という新ジャンルを開拓。そして彼もまた「フランス農事功労賞」オフィシエ賞に輝く受勲者の一人。

そんな彼を筆頭に、現在東京の飲食店を中心に開催中の「ゲンセン霧島 食材フェア」は、今回のテーマ「レイヤードな味わい」そのものと言えそうな…



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うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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