コロナ禍で延期や中止、またごくわずかな期間のみ実現できた各種イベントや展覧会などが数多い昨今。開催する側も、参加する側も残念な思いが募るばかり。
そうした中、草間彌生美術館では開催予定期間中の休館時からスタートし、会期終了後の現在も、期間限定で特別公開している特別展「ZERO IS INFINITY 『ゼロ』と草間彌生」の展覧会風景の動画は、来館が叶わなかった人にとっては、少しでも観賞できるチャンスとなっている。
また幸いにも観賞を実現できた人にとっても、この動画は改めて展覧会を楽しめる魅力がギュッと詰まっていているように思う。
一方、スタートして間ない「我々の見たこともない幻想の幻とはこの素晴らしさである」展(~2021年3月29日)では、作家が見る多様なヴィジョンをテーマに世界初公開作2点、また日本初公開作品20点(過去10年開以内の制作)で構成されている。
とりわけ本展のために制作された、赤、青、黄、緑の4色のLEDライトが鏡張りの部屋の中で明滅するミラー・ルーム『無限の鏡の間-宇宙の彼方から呼びかけてくる人類の幸福への願い』(2020年、上記画像)は、没入型インスタレーションということもあり、作品との一体感に喜びを感じるだろう。
また参加型最新プロジェクト『フラワー・オブセッション』(2017年/2020年、下記画像)でも似たような感動を味わえる。
リビングルームを模した展示室の入口で造花か花のステッカーを選び、好みの場所に貼りつけ、作品として完成していくプロセスを共有できるスタイルだ。
一方、サイケデリックな作品を背景に、作家自作の詩を自ら歌うビデオ・インスタレーション『マンハッタン自殺未遂常習犯の歌』(2010年)が、心に深く染み入る。
加えて「芸術による革命家」というタイトルで記された、本展図録を飾る「全世界への草間彌生からのメッセージ」に、キャリアと共に高まる熱量の一端が伺い知れる。
なお入場方法は、最新の開館スケジュールも公開している美術館ウェブサイト限定販売による、日時指定の予約・定員制チケットで観賞を!
というわけで、YAYOI KUSAMA WORLDで幕を開けた8月最初の「CINEMATIC JOURNEY」のテーマは、「仮想とリアルとその先へ」。まずは才能あふれる少年の輝く未来へのキックオフ的シネマ『ファヒム パリが見た奇跡』からスタート。
近年、メキメキと輝ける才能を披露し続ける高校生にして将棋棋士として活躍する、藤井聡太さん。将棋の知識を持たない私でさえも、毎回そのまなざしの先にある何かを、共有してみたくなってしまう。
また同様に、本作主人公ファヒムもわずか8歳にして、チェスの大会で勝利を重ねる注目の天才少年だ。スクリーンを前に鑑賞を続けるにつれ、いつしか彼ら若き二人の才能がクロスしてしまうのではなかなぁと?!
そんなストーリー展開と共に、主人公へエールを送りたくなるのが、この実話ドラマの最たる魅力だ。
バングラデシュ・ダッカからフランス・パリに渡るファヒムと父の親子愛。またフランスの名優ジェラール・ドパルデュー演じるチェスのトップコーチとの師弟愛。
そこに横たわるいくつもの現実の壁を乗り越えていく父子の未来に、「希望」という名の星を託したくなる。
ちなみに本作で主人公を演じ、スクリーン・デビューを果たしたアサド・アーメッドも、実はキャスティングの3カ月前にバングラデッシュから渡仏したばかりだったという。
本作誕生のきっかけについて、監督・脚本を兼務するピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァルは、TVの討論番組で目にした、チェスのジュニアフランス王者となった少年が、自身の本についてのインタビューに感銘を受けたことだったとか。
❝おとぎ話のようでありながら、社会ドラマのような一面も持ち合せている❞(本作資料より)
と語る監督の直感と、真摯な取り組み、そして登場人物への思いが込められた、自身初の伝記映画が誕生したわけだ。
8/14(金)ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国公開
©POLO-EDDY BRIÉRE.
「仮想とリアルとその先へ」をテーマに巡る今回の「CINEMATIC JOURNEY」。ゴールを飾るのは冒頭の草間彌生同様、キャリアを増すごとにパワーアップする女優、ジュディ・デンチ主演の新作『ジョーンの秘密』の話題。
「イギリス史上、最も意外なスパイの実話」という意味深なコピーに興味をそそられる本作。
ヒロイン、ジョーン役となる2人(過去と現在)の女優の内、80代になった現在を演じるのがデンチ。
ちなみに半世紀以上も前、ケンブリッジ大学で物理学を学び、核開発の機密任務についていた時代を、『キングスマン』シリーズなどで活躍中のソフィ―・クックソンが好演している。
1957年、イギリスの舞台デビュー以来、イギリスの映画・演劇界を誇る大女優として活躍する、「デイム」の称号を持つデンチ。
その魅力はやはり、ヴィンテージ・ワインのような熟成した味わいのある演じる技であり、また実際に80代半ばを超えた今なお前進を続ける女性の偉大なる先達として、心より尊敬したい。
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
配給:キノフィルムズ
© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中