今、線香が注目されている。一般的には仏事で使われる印象が強いが、香りを楽しむ嗜好(しこう)品としてライフスタイルに取り入れるユーザーが国内外でじわじわ増えつつあるという。仕掛けているのは兵庫県線香協同組合(兵庫県淡路市)。国内生産量の大半を作る淡路島・江井地区の中小メーカーが連携し、商品開発、ブランディングに取り組んでいる。「OEM(相手先ブランドによる生産)に徹してきた」だけに淡路島と線香が結び付いていないとして、〝淡路の線香〟を強調した情報発信を強化している。
(小堀真嗣)
パリ展で地道に普及
同組合の谷口太郎専務理事事務局長によると、香りを楽しむアイテムの主流は芳香液が入った容器に細長い棒状のリードを挿すリードディフューザーだが、「近年は線香を買い求める人が増えている」と指摘する。
その背景には、地道な活動を続けてきた同組合の貢献度が高いという。これまで仏パリで開催されているインテリア・デザインの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展や、現地のライフスタイルブランド「アスティエ・ド・ヴィラット」などとのビジネスをつかみ取り、暮らしを香りで彩る嗜好品として洗練されたイメージを線香に持たせた。そのイメージも併せて日本に逆輸入する形で、日本でも線香がライフスタイルショップに広がった。5年ほど前からは「ファッション関連企業に対するOEMも増えてきた」という。
これまで線香に触れてこなかった若年層は、柑橘(かんきつ)系やキンモクセイなど「身近なわかりやすい香りを好む傾向」がある。経験を重ねると、伝統的に使われてきた香木系の香りも含めて「深掘りし、コアなユーザーになっていく」そうだ。
ライフスタイルショップなどで販売されている線香は、「実は〝江井製〟が多い」と谷口氏。近年、人気となっているマッチ型のお香などの人気商品も江井製だという。「工業統計上は国内生産の5割以上が兵庫県。作っているのは江井地区のメーカー」と胸を張る。
地元民さえ知らない
同地区での線香作りは今年で175年。産業として根付いたのは、原材料の輸入と製品の輸送について地の利があったこと、漁師や農家が冬場の副業として線香作りにいそしんだことなどが主な理由とされる。ただ、黒衣の立場を貫き通してきただけに「地元の人ですら(江井地区は)線香作りが盛んなことを知らない人が多い」と話す。
同組合は線香に対する関心の高まりを好機と捉え、「線香は淡路」の認知度向上に力を入れている。組合員企業の世代交代も推進力となった。海外市場の開拓に奔走した先代たちのチャレンジ精神を受け継ぎ、ブランディングに挑む。
その一環で、江井地区にある体験型複合施設「ei-to」(エイト)に常設のギャラリーをオープン。様々な香りを原料と共に紹介、海外の富裕層向けの組合オリジナルブランド「アワジ・エンセン」などを展示した。同地区での線香作りの歴史も紹介し「地元の人たちや観光で訪れる島外の人たちに淡路の線香を印象付けたい」考えだ。