スリランカで作るフィットネスウェア「ケルナ」 毎月新作・イベント 生産者守り魅力伝える

2022/06/20 06:29 更新


 19年のテロ、20年からは新型コロナ、今年5月には国家がデフォルト(債務不履行)――政治、経済、社会的な混乱が報じられるスリランカ。主要産業の観光も大きな打撃を受けている。そんなスリランカでフィットネス・ヨガウェアを作る「ケルナ」(前川裕奈代表)は今年2~9月、毎月新作を出し、毎月イベント販売を実施するという目標を掲げ、生産者を守りながらウェルネスライフやブランドコンセプトの「セルフラブ」(自分を愛する)を伝えている。

(壁田知佳子)

■頑張りに応え給与アップ

 観光で外貨が稼げなくなり、オイル不足により物価は高騰、ガソリンスタンドは平均6時間待ち、1日のうち13時間は停電する。街中ではデモや混乱に乗じた盗難も頻発し、ケルナのアトリエでも、昨年導入した日本製ミシンが2台盗まれた。アトリエのメンバーも精神的な疲労がたまっているという。

 前川代表は2~5月にスリランカに行った。停電で1日の半分しか稼働できず、OEM(相手先ブランドによる生産)を受けていた相手からの依頼がなくなるなど、状況は厳しい。だが、昨年は1度しか出せなかった新作を今年は続けて出し、毎月イベントを実施すると決めていた。アトリエでもリアルの場で販売できることを喜びに感じ、短い稼働時間の中で頑張ってくれている。その頑張りにこたえたい思いもあり、給与を1.8倍にすることを決めた。

苦しい環境でも笑顔を忘れないスリランカのスタッフ

 コストアップに伴い商品価格を改定した。「元々、価格が安いから購入してくれているわけではないし、生産者に適正に還元したい」という思いからだ。

 今年5月に出した新作レギンスは、初の総柄ということに加え、クリエイティブにも力を入れた結果、発売3日間で85%を消化した。「以前は私に会いに来てくれ、購入してくれる人が多かったが、最近は商品が自走してくれていることがうれしい」

 6月22~28日は初の名古屋出店となるJR名古屋高島屋、7月26日~8月1日は西武渋谷店で期間限定店を出す。8月には京都のギャラリーで、スリランカのカレーやお酒を出す仲間とともに、スリランカを感じてもらうイベントを実施する。食とからめたイベントは、年齢や性別を超えた人にスリランカを伝える機会になる。

総柄レギンスなど毎月新作を出している

■メンズ向けやメディア機能も

 商品としては今後、メンズを始めようと考えている。男性も容姿に対する固定観念があり、同じコンセプトでメンズを打ち出す。またケルナを単に商品ブランドとしてだけでなく、メディアとしての役割を持たせたいと考えている。ブログのブラッシュアップや本の出版も計画しているほか、ファンとともにスリランカを訪れるツアーも組みたいと考えている。日本でもプロギング(ごみ拾いをしながらのランニング)やヨガイベントなど、対面イベントも積極的に企画していく。

 前川代表は「テロやデフォルトのニュースをみて、スリランカのイメージが悪くなることが悲しい。人々は自分自身にも他者に対しても愛にあふれ、前向きで、笑顔を忘れない」ことに大きな魅力を感じている。スリランカ人から届く「いつか良くなると信じている」という前向きなメッセージにも力づけられている。

 事業の拡大に向け、ほかの国での事業立ち上げも検討したが、「ビジネス的には正解かどうか分からないが、私はスリランカの人と一緒にやりたい」。現在のアトリエは南部にあるが、北部に新しいアトリエを設けて別ラインを始める準備を進めている。

多様な美しさを認める「ボディーポジティビティー」や「セルフラブ」を発信する「ケルナ」
前川代表


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