茶色くさびたトタンが味の平屋の建物「金城市場」が注目されている。22年から30回以上のイベントが開催され、内容は夜市やライブ、アートと多岐にわたり、約500~1000人が集まる。市場があるのは名古屋市北区黒川。都心をわずかに外れた住宅街だ。同区に住む小田井孝夫さん・康子さん夫婦が金城市場を含む空き物件を改修、店の誘致、イベントの開催で街の風景を変えている。
(森田桃子)
古い味を生かして
東京に住んでいた小田井夫婦が名古屋に帰ってきたのは20年。孝夫さんの親族が亡くなり、複数の空き物件を引き継いだのがきっかけだ。周辺にも空き家が点在、そこに駐車場を作るのでは「つまらない」と思った夫婦は、物件を夢ある事業者に貸し出すことにした。

4区画が連なる長屋や倉庫など、6軒の情報をイラストと共に記載した手製の冊子「NAGOYA AKIYA LOOKBOOK」を作成。マルシェなどに赴き、事業者に配ったところ、古い物件の雰囲気や味わいを面白いと思う人から反応があり、古本屋や古着屋、コーヒーやコロッケ屋など3年で10店が出店した。
金城市場も夫婦が引き継いだ物件の一つだ。375平方メートルの平屋で、1955年~75年ごろには食品や日用品の市場として住民の生活を支えたが、時代と共に廃れ、引継ぎ時には肉屋が一軒残るばかり。窓はトタンで塞がれ、中には物が散乱し、貸し出そうにも「見れば見るほど手に負えない」状態だったという。

「やりたい」が推進力
しかし片付けを始めると、興味を持った有志の若者たちが集まり、手伝ってくれるように。改修と並行して、メンバーの一人が主導する音楽ライブなどイベント開催を始めたほか、市場の一部をアトリエとして入居する事業者も現れ、用途が具体化し始めた。
23年、その金城市場の様子をSNSで見たイギリス人のアーティストから、「ここでライブをやりたい」とDMが届いた。夫婦にとっては初の主催イベントで集客に不安があったが、飲食などの店を集めチラシを作り、店にまき、いざライブ当日になると、平日夜にもかかわらず約200人が市場に詰め寄せた。
市場の持つ広さや風通しの良さなどのポテンシャルが生き、音楽を聞きながら自由に出たり入ったり、友人と話しながら飲み食いしたり。「踊りたい人は踊っちゃう」。客も関係者も「このノリだよ、この雰囲気だよと金城市場の方向性が定まっていった」。
この経験から24年には「金城夜市」を始めた。約20店の飲食、雑貨、ファッションなどの事業者を集め月1回平日に開催し、地元の高齢者から遠方からの若者まで老若男女400~500人を集客する。客は夫婦の空き物件に入居した店舗にも回遊し、地域に盛り上がりを波及させた。
話題がすぐ広がるのも「地方都市らしい良さ」と孝夫さん。イベントをやりたい人が次々集まり、活用方法はプロレスやスケートボード、作家のインスタレーション会場など多岐に上る。夜市で出会った事業者の提案で、青果店や花屋などを集めた朝市も始めた。客や事業者の声を常に聞き、「集まった人たちと一緒に考えて、作る」ことを意識している。
活動を始め「お客さんからも、この辺変わったよねと声をかけられるようになった」と話す。夫婦は所有する物件だけでなく、周辺の空き家の大家と交渉し、有効活用につなげている。街の空洞化について、使命とまで考えていないが、「どこまで歯止めをかけられるか」と願いを込めて活動を続ける。夜市は現在不定期開催で次回は4月24、25日に予定。5月5日に本のイベントも開催する。