10年代前半のファッションにフォーカスした展覧会「Login to the self」が、東京・西麻布のギャラリー、ウォールオルタナティブで10月24日まで開催中だ。企画するのは、プロデューサー、ライターをなりわいとする倉田佳子さん。改めて今、東京のファッションカルチャーに向き合い、体系化して後世に残したいと、当事者の協力を得てプロジェクトを立ち上げた。
(須田渉美)
インスタのない時代に
会場の入り口近くに置かれたソファには「縷縷夢兎」(るるむう)の手編みしたニットウェアが敷き詰められ、ガーリーなムードでいっぱい。壁面には「バルムング」のビニル素材で包み込んだジャケットがつるされ、傍らには10年代の雑誌とともに「iMac」のパソコンが設置されて画面が漠然と光を放っている。副題にもあるように、ファッションやカルチャーと接続する場が〝ストリートからインターネット空間へ〟広がったのが10年代の特徴だ。
「ハトラ」「クロマ」「ボディソング」など、この展覧会に参加したブランドの多くは、「既存のファッションシステムにとどまらず、自主展示やオンラインの発信、音楽、アートと交わりながら、衣服と身体、自己表現の在り方を模索」してきた経緯がある。「インスタグラム」が主流になる以前の時代で、ブランド特有のアクティビティーと表現力によって、コアなコミュニティーを築いた。
倉田さんも当時、こうしたカルチャーに触れていた一人だ。当時は学生だったが、昨年、ロンドンで過ごす機会があり、様々なファッションの展覧会に接して「体系化することの重要性を感じた」と話す。ロンドンやパリでは、ファッションウィークの時期に合わせて、様々なファッション関連の展覧会が開かれている。「地下鉄や街中で一般市民が読んでいるフリーの新聞などに展覧会のことが書いてあって、ブランドを知らなくても関心を持つ機会がある。規模は大中小異なるが、ファッションのムーブメントや歴史を体系化する、パッケージ化することって必要なことだと思う。日本にはコミュニティーが存在しているのに、点の動きにとどまり、一般的には認識されないまま。自分で動いて、パッケージ化したものを出してみたい」と考えたのが、展覧会のきっかけだ。
若い世代へ客観的に
個人で主催するのは資金的にも難しいため、企画を持って協賛企業を探し回り、エイベックス・クリエイター・エージェンシーが運営するウォールオルタナティブとの共催にこぎつけた。企画は、倉田さんだけでなく、00年代から活動しているスタイリストの小山田孝司さんや市野沢祐大さんなどの協力を得て、ファッションの文脈を踏まえた展示空間を構成していった。奥の壁には、小山田さんとボディソングが集めていた「ベルンハルト・ウィルヘルム」の00年代の古着も展示。「クリエイションに影響を与えたリファレンスも紹介して、時代の流れが分かるように構成した」と市野沢さんは話す。
会場には倉田さんがロンドンに留学していた12年頃に購入した英国のカルチャーマガジン『デイズド』も展示する。一部には東京のファッションに着目した特集が掲載され、展示ブランドのユニークさを垣間見ることができる。とはいえ、当時のこうしたブランドを取り上げたファッション雑誌の記事は圧倒的に少ない。
「この時代って雑誌からSNSへの移行期にあって、ネットの発信もそれほど盛り上がっていなかった。記録としてすっぽり抜け落ちている。若い世代が何があったか知りたくても、情報が出てこない。その時代を生きた体感とともに、客観視する意識を持って伝えていきたい。この展覧会がきっかけになって、他の人や企業が着目する連鎖反応が広がっていったらいいな」と倉田さん。
自身も第2弾を視野に、プロジェクトを継続する。
