多様化、包括性、環境問題、ブラックライブズマターなど、さまざまな社会問題への関心が高まるにつれて、以前の記事で紹介したような、スローガン入りのTシャツが増えている感がある。アメリカで特に重要な顧客層になってきているジェネレーションZの中で、社会問題への関心が高い人々の割合は他の世代より高い。社会問題に関して発信する上で、ファッション、特にTシャツはおそらく最も手軽に扱いやすいツールだろう。そうした中、現代美術家のリクリット・ティラヴァーニャが、今年3月にマンハッタンにオープンしたギャラリー兼レストランの「ザ・ギャラリー」で、食を提供しながらスローガン入りTシャツを展示即売するイベントを開催した。観客とのコミュニケーションを重視するティラヴァーニャならではのイベントに、多くのニューヨーカーが訪れ、ファッション、アート、食を楽しんだ。
Tシャツは元々、ガーナなど発展途上国に送るためにチャリティーとして集められた古着だが、非営利団体のThe OR Foundationによると、実際は輸出業者がアフリカの業者に販売しているという。そして、そのうちの4割は結局行き場がなく、破棄されたり燃やされたりして環境問題に発展。一方で、港から市場まで古着を運ぶ女性たちが過酷な労働をしなければならない状況もある。The OR Foundationは2009年から、アメリカとガーナを拠点にこの問題を告発し、世の中に広め、サーキュラーエコノミー実現に向けて活動している。
ティラヴァーニャはThe OR Foundationを通じてアフリカに輸出される前のTシャツ100枚を集め、教鞭をとっているコロンビア大学で学生たちの協力を得ながら、1点1点Tシャツの裏側にシルクスクリーンで「FEAR EATS THE SOUL 」(恐れが魂を蝕む)「DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY」(私たちは同じ空の下で夢をみているか)などのメッセージを入れた。元のTシャツはシカゴのお土産Tシャツだったり、「I LOVE NY」などの文字が入っていたり。BLACK LIVES MATTERと書かれているTシャツに、ティラヴァーニャがマーティンルーサーキング牧師のポートレートとFear Eats The Soulの文字を入れてアート作品としたTシャツもある。
イベントでは、ティラヴァーニャと、ザ・ギャラリーの創業者でミシュランスターシェフの大堂浩樹がピンポンテーブルを題材としたアートワークの上で、それぞれの国のルーツに根ざしたカレーを作った。ティラヴァーニャは以前にもカレーをつくるイベントをしたことがあり、カレーは彼にとってシグニチャーとなるフードの1つ。ティラヴァーニャは祖母の秘伝のレシピである中東風のココナッツミルク入りカレーを当日の朝から200食分用意した。大堂シェフは、ロブスターとキノコを入れたカレーをつくった。
来場者は各自トレイをピックアップして食べる形式。ごはんは日本のお米。カレーももちろん美味しかったが、このご飯がまた格別に美味しかった。このカレーは10月いっぱい、ザ・ギャラリーで提供される。
食べ終わった来場者たちは壁にかけられたTシャツを吟味し始め、気に入ったTシャツを買っていく人たちが続出した。Tシャツは1枚120ドル。すべて1点物で、10月中は残りのTシャツの展示即売が継続される。売上高の一部は、The OR Foundationに寄付される。ネットでは買えず、ここでしか手に入らない点も魅力だろう。ワクチンが普及して行動範囲が広がるにつれて、このようなネットではできない体験を提供し、なおかつ社会的意義があるイベントがより増えてくると思う。ティラヴァーニャは2022年の岡山芸術交流のアーティスティックディレクターに就任していて、そこでもどのような芸術祭を展開するか注目されている。
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)