マンハッタンの37丁目から40丁目くらいまでの7番街から8番街あたりは「ガーメント・ディストリクト」と呼ばれ、昔からアパレルメーカー、縫製工場、生地問屋、付属店がひしめき合っている。その一角に、ニューヨークソーイングセンターという縫製教室がある。昨年の売上高が前年比75%と急増したと聞き、訪ねてみた。
創業者のクリスティン・フレイリングさんは元々ファッションデザイナーで、カシミアのベストなど冬服をつくっていた。フレイリングさんは暇なシーズンにサイドビジネスとして、アフタースクール(学校の放課後の課外活動)や自宅の地下室で縫製を教え始めた。ニューヨークソーイングセンターをオープンしたのは12年前。現在は2フロア計約560平方メートルに、いくつもの教室を構える。

昨年3月にはブルックリンのウイリアムズバーグ、12月にはニュージャージーに分校もオープンした。
縫製への人気が高まっている大きな理由の1つは、手で何かしたい人が増えていることにある。AIやスマホ、ソーシャルメディアから離れて、手を使って何かつくりたい、コミュニティが欲しい、人と話をしながら何かやりたい人が増えているのだ。サスティナビリティも人気の要因。もう1つの大きな理由は節約だ。自分で作ったり直したりして、新品を買うより安く済ませたい人が増えているのである。
縫製を習いたい人たちは、クラスを予約すれば、誰でもいつでも参加できる。マンハッタン校は30人の先生がいて、1クラスの生徒数は10人から40人くらい。一番人気の高いクラスは、初心者向けクラスだ。ミシンはジャノメミシンと提携し、ジャノメミシンのミシンがずらりと並ぶ。

授業料は1クラス45ドルが一番安いが、多くは85ドルくらいで、12時間かけてパターンをひきジーンズやシャツなどをつくる450ドルのクラスもある。
DJをよんで音楽を聴きながら縫製するクラスを月1回行い、ワインを飲みながら縫製するクラスは毎週やるなど、ユニークで楽しそうな企画もある。貸切パーティにして、ケーキとワインを楽しみながら刺しゅうを習うプライベートイベントを開催する人もいるそうだ。
参加者は4歳から75歳くらい。20%は男性で、男性の比率は増えている。かつては縫製は女性のやることと思われていたが、そうした「ジェンダーバイアス」はもうないし、特にニューヨークではやりたければやればいいという風潮がある、とフレイリングさんはみる。

教室に習いに来るのはほとんどファッション業界とは無縁の人たちなので、混むのは平日の6時から9時と週末の10時から6時だ。それとは別に、デザイナーたちに場所や機材を使わせる別制度も設けている。1時間10ドルでスペースを自由に使えるのは、若手デザイナーにとってはありがたいだろう。もしくは月350ドルで自分用のスペースを借り、そこに材料や器具などを置いておくこともできる。


アップサイクルに使えそうなデッドストック生地やサンプル、リバティーなどの生地ブランドの新品の生地を買える部屋もある。


ニューヨークの縫製産業はどんどん廃れているというが、その一方でこうした草の根の流れもある。デジタル疲れから手仕事への憧れが高まっていること自体は今に始まったことではないが、縫製をやりたい人がこれだけ増えているのは、ファッション業界人としてはなんだか嬉しい。

89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)
