【パリ=小笠原拓郎】16~17年秋冬オートクチュールは、いつになく静かなままその日程を終えた。ショーの数が減っているわけではなく、プレゼンテーションはいつもよりも多いほど。しかし、クチュールテクニックを背景に壮大なファッションを描くというよりも、その技術の表現の仕方がリアルで無難な方向に向かっているように感じる。今シーズン、目立ったのはテープやストリングスを垂らしたり編み込んだりといったディテールと、ショルダーラインの強調だ。
■エリザベスカラーの厳粛なイメージ ヴァレンティノ
「ディオール」の次のアーティスティックディレクターにマリア・グラツィア・キウリが就任するという一部報道が流れ、これが現チームでの最後のクチュールになるのかと話題を集めるヴァレンティノ。そのコレクションは黒と白と赤に絞り、エリザベスカラーのような装飾的な襟の厳粛なスタイルを見せた。ラッフル襟、レースアップの袖の装飾、ボザム飾りのアシンメトリーなドレープ。厳格な黒と白の中にそんなディテールをしのばせる。フィッシュネットのような透け感とベルベットの光沢を組み合わせたドレスやアンティークブロケードのパンツスーツは上質さを控えめに見せ、マキシドレスにブロケードで描かれたユニコーンはヒストリカルなムードを漂わせる。チュールに繊細な花を刺繍したマキシドレス、デコルテを強調したオーバルネックのドレスを経て、ショーの後半は赤を強調したドレスが揃う。赤いドレスは白い襟や黒いケープレットが鮮やかなコントラストとなり、強い存在感を持っている。いささか舞台衣装のようで時代感にリアリティーは欠けるのだが、手仕事を散りばめた圧倒的な存在感は他にはない魅力を放っている。
■サスティナブルクチュール ヴィクター&ロルフ
ヴィクター&ロルフは、過去のコレクションに用いたテキスタイルを集め、それをリサイクルして新作に仕立てた。ロゴ入りトレーナーにはチュールをフリルのように重ねてドレープを流し、デニムのパンツはたくさんのボタンを刺繍のように重ねて装飾にする。過去のテキスタイルはテープ状にして編み込んで、ドレープいっぱいのシャツやトップに作り変える。編み込んだテープの端がアブストラクトな表現となってふわふわと揺れる。チュールをテープ状にして編み込みながらフリルを作って、フレアラインを描くドレスに。ミリタリーコートもチュールのボリュームでトレーンドレスに変身する。サステイナブルな発想をハンドクラフトの技術が支え、新しいクリエーションへとつなげるコレクションは、現代のクチュールのあり方への一つの回答のように思える。
■自然のモチーフ ゴルチエ・パリ
ゴルチエ・パリは自然のモチーフがいっぱい。モアレのコンビネゾンやコートでスタートしたショーは、ラムファーやミンクのジャケットにファーをはぎ合わせたコートへと続く。ミリタリーパーカの裏地やモスリンドレスには森の風景プリントが描かれ、地層のようなテープ状の布を重ねてドレスを彩る。クロコダイルのライダーズジャケットにモヘアのチェックのコートなど、ゴルチエらしいパンクの要素もちらり。リュックサックにかぶせられたキツネのファーが、単なる自然愛好家ではないことを物語る。