グラムロックなドレスとマスキュリンなコート
【ロンドン=小笠原拓郎、若月美奈通信員】16~17年秋冬ロンドン・コレクションでは、透け感や輝きをのせたワンピースとともに、オーバーコートがキーアイテムになっている。ラグジュアリー系が味付けとして加えたグラムロックな気分は、若手ブランドでは前面に露出されている。そうした流れもあり、レトロなスポーツジャージーはあるものの、スエットやデニムは姿を消した。
リッチなダルカラーと並んで、鮮やかな赤、優しいピンクも目立つ。ディテールでは、「バレンシアガ」を手がけることになって話題のデムナ・ヴァザリアのブランド「ヴェットモン」の影響か、手先まですっぽりと包む極端に長い袖がたくさん出ている。
身近なものをラグジュアリーに再生/クリストファー・ケイン
クリストファー・ケインはこのところ、日常に転がっているもの、すぐにゴミになってしまうものをラグジュアリーな服や小物によみがえらせることに夢中のようだ。冒頭に登場したのは、段ボールで作ったようなミニマルなフォルムのレザーコートとトートバッグ。ルビーレッドのテーラードコートやシルクドレスには、のみの市に並ぶジュエリーがあちらこちらに安全ピンで留められている。
白や黒のリボンテープをつなぎ合わせたドレスは雑貨屋に転がる造花のアップリケやフリンジで飾られる。前シーズンの結束バンドに続くアクセサリーは、雨よけのビニールをかたどったヘッドピース。スティーブン・ジョーンズが手がけたもので、様々な形で風になびくようなフォルムが楽しい。
薄手のレースや羽毛の飾りもポイント。キャッチーなアイテムは、ゴシック体で巨大な「K」で始まるケインの文字が編み込まれたセーター。こうした美の概念の再生は、これまでもマルタン・マルジェラをはじめとするデザイナーたちが試みてきたことだが、ケインのそれは少年のいたずらのようなピュアな優しさがある。
トーガは、ファーのマフやショールをアクセントにした。メタリックなカエルを刺繍したハイウエストパンツやサロペット、アブストラクトなアップリケをしたセーター。トーガにしてはシンプルなアイテムがメーンとなる。
そこに重ねたファーマフは色も分量も様々。片手だけにマフをつけたり、クロス掛けしたサスペンダーから両手にたっぷりのマフを飾ったり。時にファーマフはぶらぶらと垂れ下がりアクセサリーとなって主張する。ファーマフと並んで、レザーのスクエアバッグをウエストポーチのように付けるのも今シーズンの特徴。
ショーの後半は、2Dのように平板で丸いショルダーラインのトップ。フロントとバックで表情が全く変わるデザインだ。フェザーのトップにも、その上から体を拘束するようなファーのトップを重ねてみせた。
マルケス・アルメイダはシグネチャーである切りっ放しのデニムを最小限に抑え、ウールやコットン、ネット、ファー、ダウンまで様々な素材のアイテムを揃えた。店頭にきれいに並ぶ服ではなく、普通の若者のクローゼットにあるアイテムをバランスやボリュームで変化させる。
赤×白ストライプのシャツは手先まですっぽり隠れ、さらに巨大化してウエストを共布ベルトで絞るコートになる。ジップアップのジャージーはミニドレスになったり、袖口に長いカフスを付け共布のビュスティエを重ねる。ダウンのコートは布団を背負ったようなボリュームだ。グリーン、オレンジ、イエロー、ブルーの鮮やかな色が中心で、強い色のミニドレスに黒や白のネットのドレスを重ねるスタイルもある。
ジョゼフもボリュームたっぷりのオーバーサイズ。それをふんわり厚手のウールやバルキーなニットで仕立てているので、とにかく暖かそう。季節感のない薄手の新作が並ぶ今シーズンのロンドンで、異例なまでに秋冬らしいコレクションは新鮮だ。コートの上にコルセットを付ける着こなしや、目玉や葉っぱ、フォークのモチーフを散らしたセーターなど、80年代をほうふつとさせるのびのびとしたデザインがさえる。(写真=catwalking.com)