英国の伝統にスポーツやストリートを合わせて
【ロンドン=小笠原拓郎、若月美奈通信員】16~17年秋冬ロンドン・メンズコレクションは、ミリタリーに代表される英国の伝統を背景にしたスタイルが依然として強い。伝統的なアイテム、ディテールをスポーツやストリートの要素と合わせてモダンに仕上げようという試みが目立つ。
コートのバリエーションとジャージートップ/バーバリー
バーバリーはいつものようにケンジントンガーデンにテントをしつらえて、英国人ミュージシャンのベンジャミン・クレメンタインのピアノとゲイリー・パウエルのドラムの生演奏をバックにコレクションを見せた。「プローサム」「ロンドン」「ブリット」を統合して「バーバリー」でのショーだ。
そのオリジンでもあるコートのバリエーションを、スポーティーなジャージーと組み合わせた。大柄チェックのコートや金ボタンのミリタリーコート、ベージュのトレンチコートなどの中には、ジップアップをポイントにしたレトロな気分のジャージートップ。パンツラインはフレアかストレートで、軽快なスニーカーやドライビングモカシンで足元を固める。シアリングの象眼でチェック柄を描くブルゾンや、スパンコールのジャージートップなど、カジュアルアイテムに細かな手仕事を散りばめた。
アレキサンダー・マックイーンは、英国の伝統的なテーラーリングからイメージした。カシミヤやキャメルにモーニングストライプといった生地を縦長のテーラードスタイルにのせていく。ダーウィンがコレクションの背景にあり、標本となったチョウをスーツやコートに刺繍していく。黒地に白く浮かび上がるような花を描いたコートもある。
後半はミリタリーのモチーフを取り入れたライン。側章のパンツのミリタリースーツは、側章が長く裾を引きずるようなディテールになっている。伝統的なテーラードスタイルだが、パンツのシルエットはテーパードされないストレートで、それを長めの着丈でスニーカーと合わせることで、ストリートの気分を取り入れている。フォーマルは、ベルベットにメタリックの花柄刺繍をびっしりと描いた。
モスキーノは英国の2人組現代アーティスト、ギルバート&ジョージの世界を服に落とし込むことを試みた。モノクロ写真に鮮やかな色を平面的にのせ、影と光の線を描くことで不思議な立体感を出す彼らの手法を、もともと立体的な服に施すことで生まれる新しい立体感を遊ぶ。細身のテーラードスーツにダウンコート、MA-1ジャケットにジーンズ、ワークブーツ。ごく一般的なアイテムは鮮やかな色で染められ、黒い影と白いラインで立体が描かれる。
それはトロンプルイユのようで逆に平面的に見えたりする。巨大な人の顔、太いボーダーストライプ、十字架など、彼らの作品へのオマージュはいたるところに登場する。実はこのコレクション、ショーで実際に見るのと平面になった写真で見るのでは、全く見え方が違う。ジェレミー・スコットの錯乱作戦にまんまと乗せられてしまったようだ。
コーチはアメリカ東海岸のブルーカラーのマスキュリンなスタイルからイメージした。短めの丈のシアリングコート、チェックのネルシャツやネルチェックの切り替えブルゾンなどを揃えた。リフレクターディテールのワークブルゾンやメタルボタンのメルトンパーカ、変形のフライトジャケットもある。アメリカのカジュアルなスタイルをベースに、コーチらしいレザーやシアリングのテクニックでモダナイズしようとしている。
ラグジュアリーストリートの代表ブランドとなったアストリッド・アンデルセンは、さまざまな素材にこだわりながら、エッジの立ったスポーツスタイルを描く。ボンディング、キルティングといった量感の素材に、メタリックやレースの素材を重ねて変化させる。ケミカルなナイロンタッチとファンシーツイードチェックが重なり、ケーブルニットに鮮やかなミントグリーンがカーキとのコントラストを作る。スポーツアイテムにラグジュアリーな素材でツイストをかける手法は一貫しているが、初期のコレクションに比べると落ち着いてしまったのか、そのパワフルさが以前ほど感じられない。
ケイスリー・ヘイフォードは、英国のミリタリーユニフォームに焦点を当てた。ずるずるとトレーンを引くヘムラインのミリタリーパーカに金モール飾りのミリタリーパーツをかぶせたロングスエットなど、ミリタリーアイテムにひねりを加えていく。カーキや黒のミリタリースタイルに変化をつけるのは、鮮やかな羽根のようなプリントのコートやジャカードのタキシードだ。
KTZはパワフルなストリートスタイルに野球のモチーフを取り入れた。グラフィカルなストライプのセットアップやコートにキャッチャーマスクのようなヘッドピースをコーディネート。ブルゾンやスエットパーカには野球のボールのような縫い目をモチーフにしたレースアップディテールが取り入れられる。グラフィカルなテープで編み込んだセーターは野球のグローブからのイメージか。カードゲームやドミノのモチーフの刺繍をスタジアムジャンパーに描いた。
ケイティー・アーリーはメタリックシルバーやウオッシュベルベットの光沢素材と得意のプリントを重ねて艶やかな雰囲気を作る。メタリックパンツはレースアップのディテール、ベルベットブルゾンは部分的に箔(はく)を切り替える。プリントは出目金や蛇が多い。グラフィカルなストライプやスクエア柄とともに、セットアップやパジャマスーツにのせた。
リアム・ホッジスは自動車を自分で改造までしてしまう車オタクをテーマにした。モノトーンに鮮やかなロイヤルブルーやイエローを加えたバギーシルエットのプルオーバーにドローストリングパンツ、上着を脱いで腰から垂らしたつなぎには、ナンバープレートや工具がプリントされている。ウエスト部分が二重になったパンツや、前から見るとステンカラーのロングコートで後ろだけブルゾンを重ね着したようなレイヤーアイテムもある。
ボビー・アブリーも鮮やかな色を乗せたバギーなスポーツスタイル。テーマはオリンピック開催地のリオデジャネイロ。そこから派生したディズニーのキャラクターのホセ・カリオカやドナルドダックがスエットやパーカを飾る。クロップトトップやショーツなど肌を見せるアイテムも多い。(写真=catwalking.com)