【パリ=小笠原拓郎、青木規子】17~18年秋冬パリ・コレクションを見る中で、ここ数シーズンの服作りのトレンドが大きく変わったように感じる。
女性の気分に沿った女性デザイナーのクリエイションがトレンドを引っ張った時代が続いたが、秋冬はよりコンセプチュアルなデザインへと軸が移っている。ロジカルに計算されたコンセプチュアルな服の持つ磁力が、服作りのトレンドをずらして新しい時代へといざなっている。
巨大なスタジオに入ると、「バレンシアガ」のロゴを入れた絨毯(じゅうたん)が全面に敷き詰められている。バレンシアガは、造形的なフォルムのコートやジャケットを揃えた。テーラードジャケットはフロント合わせが大きくずれてボタンが肩の位置についている。ゆがんだフロントから斜めにドレープが流れ、不思議な迫力を作り出す。
ステンカラーコートやダッフルコート、ピーコート。さまざまなアイテムがずれたフロント合わせによってドレープを描くとともに、襟やフードなどのディテールがデフォルメされて可愛らしくなる。もともとシンメトリーなコートやジャケットが、フロントのずれによってアシンメトリーなヘムラインに変化してドレープを作り出す。
ブラウスは背中にパッデッドパーツをつけて、後ろ身頃だけのベストのようなコーディネートに。ビュスティエディテールの立体的なリブニットなど、デムナ・ヴァザリアのフェティッシュな感覚とアトリエのテクニックが、その造形に力強さを生み出す。
後半は花柄のテントドレスやチュールでボリュームを作り出したクチュールドレス。かつてのクチュールのショーのときにモデルたちが持った番号札からイメージした、ナンバー入りの小さなバッグがくすりと笑いを誘う。
コムデギャルソンは織物ではない素材を使って、服の未来を提示した。真っ白なわたのドレスは袖もなく、かすかに人の痕跡を残すような丸み。糸くずを縮絨したようなフェルトタッチの布が膨らみゆがむ。袖のような筒が連なりリボンが飾られるドレス、立体的なパーツをいくつも飾ったドレスは白いライダーズジャケットの痕跡を少しだけ感じさせる。保温用のメタリックシートは、身体に巻きつけながらアシンメトリーに歪み、光を反射する。
石膏(せっこう)の上にチュールを重ねて樹脂で柄を描いたドレス、黄土色の紙を丸め膨らませて作った造形ドレスもある。テーマは「フューチャー・オブ・シルエット」。ここ数シーズン、コレクションを〝象徴〟として提示しているが、このコレクションが商品になった時に、どんな風に象徴とプロダクションの間のせめぎ合いが見られるのか。そこも考えさせられた。
ハイダー・アッカーマンはコンケープトショルダーで見せる凛(りん)とした空気をはらんだコレクション。小さく肩を膨らませたコンケープトショルダーのタキシードやトップでシャープなシルエットを作りながら、ラムファーのジャケットやパンツがふわふわと風に揺れる。ひび割れたような刺繍やステッチがスーツやドレス、トップを飾り、シンプルなラインを静かに彩る。ロングレザーグローブやレザーのハイネックトップで構築的なフォルムを引き締めた。
ジュンヤワタナベのショーは、今回もジギースターダストのようなエキセントリックなメイクのモデルが登場する。Tレックスやレッドツェッペリンのブリティッシュロックとともに登場するのは、タータンチェックやレパードのアイテム。ライダーズとケープを合体したようなアイテムや、円形や三角形の生地をはぎ合わせたトップ、スパイラルのようにプリーツを畳んでいくタータンチェックドレスなど、この間の折り紙テクニックからの引用も見られる。壁紙のような花柄素材、重厚なジャカードなど、英国のインテリアを思わせるような生地も取り入れた。
ニナ・リッチは、ブランドらしい繊細でフェミニンな雰囲気にウェスタンのディテールを組み合わせた。最初に目を引くのは、上を向いて咲く花のようにスカラップを飾ったブラウスやふんわりパンツ。愛らしいアイテムに、ジャージーレースのスキニートップやタイツを合わせる。センシュアルな肌見せディテールは、ほかにも散りばめられている。
パンツやドレスは腰の丸いカットワークから中のレースがのぞき、セーターはひじ部分がぱっくりと開いている。エレガントなサテンのロングドレスを飾るのは、波打つウェスタンヨークやシルバーのカラーチップ。画家マリー・ローランサンの絵や、それに使われるグレーブルーやダスティーピンクで彩られた。
(写真=大原広和)