消えゆくテーラードスタイル
量感のストリートカジュアルが全盛
【ロンドン=小笠原拓郎】17年春夏ロンドン・メンズコレクションを通じて、今のメンズモードに必要とされる男性像が明らかになりつつある。クラシックなテーラーのブランド以外で、きっちりとしたジャケットスタイルを出したのはほんのわずか。ロンドンの得意としていたエキセントリックなストリートスタイルが健在である一方、もう一つの柱だったテーラーリングがファッションの前線から外れていっている。少数のテーラードジャケットを軸にしたブランドも、その表現には工夫が見られる。この流れがミラノ、パリへとどうつながるのか注目したい。
マーガレット・ハウエルはシックな色を組み合わせて落ち着きのある大人のエレガンスを見せた。ここ数シーズン、コーディネートも含めてモードにカムバックした感があったが、春夏は過剰なスタイルはなく淡々とした演出。しかし、そのそぎ落とした演出がゆえ、アイテムの細部に目がいく。ネイビーとパープルの間のような色のスーツや白いリネンのタンクトップが抑制の利いた男らしさを強調する。
コットンのしわ感を生かした半袖シャツにはツートーンのニットタイを結ぶ。フレアラインのレインパーカに、同じグレートーンのレインハット、コットンキャンバスのパンツは大きく折り返して着る。大人の男が身につけるのに過不足ないリアルスタイルだが、このクオリティーの高さは製品になった時にどれくらい表現できているのだろうか。エキセントリックではないデザインだけに、そこが気にかかる。
ヨーロッパサッカーの下部リーグに所属する選手からイメージしたEトウツは、いつもよりスポーティーになった。短めのショートパンツにTストラップのスニーカー、タイダイ風シャツにざっくりとしたセーターといったアイテムだ。とはいえ、持ち味のテーラーリングは今シーズンも興味深い。
低いゴージ位置のジャケットは80年代のアルマーニのようでありながら、今の時代に見ても違和感はない。着丈とのバランスでモディファイして、ノータイで合わせることで軽やかに見える。合わせるパンツもまたペグトップのようなゆったりとしたもの。ジャケットとパンツでストライプのピッチを変えたコーディネートもあった。
クリストファー・シャノンはデニムとジャージーをキーにして、ユーモアいっぱいのスポーツスタイルを見せた。デニムに見えるジャージーのブルゾンやショートパンツで始まったショーは、スラッシュデニムのパンツへと続いていく。3枚のジーンズを重ね着したようなパンツ、2枚のGジャンを縦に合体させたトップ、デニムのレッグウォーマーまである。ベルトループのパーツをストリングス刺繍のように飾ったデニムのセットアップも面白い。安売りスポーツチェーンのタグをデフォルメしたようなアップリケが笑顔を誘う。
コーチは得意のアメリカンスタイルの柄の変化で見せた。花や蛇のプリントやプリント地とレザーを切り替えたライダーズジャケットなどを出した。スカジャンはサイコロやスカル刺繍、MA-1やミリタリーパーカは長いフリンジ飾りがアクセント。ジップカーディガンにはウルフやスカル、サイコロを編み込んだ。アメリカのスタンダードアイテムを背景にした作り方をしているが、シーズンごとにもう少し展開していかないと既視感だけが残ってしまう。
ロンドン・メンズコレクションにデビューしたメゾン・ミハラヤスヒロはボウリング場をショー会場に選んだ。フィフティーズイメージのカジュアルアイテムにミハラらしいユーモアとデコンストラクトのディテールを取り入れる。ボウリングシャツはずるずるとしたロング丈、アップリケや刺繍を強調したスエードブルゾンやバンダナに蹄鉄{{ていてつ}}のペンダントといったアイテムが揃う。異なるアイテムを合体させたアシンメトリーのデザインも多い。身頃の右半分と左半分がチェックシャツとボウリングシャツになったトップ、同様にチノパンツとジーンズが合体したボトムもある。
リアム・ホッジスはミリタリーやワークを背景に、パッチワークでボリュームを変えたスタイル。カーキのシャツはスクエアに生地をはぎ合わせ、スエット地もアブストラクトに切り替えて、いびつなヘムラインのトレーナーにする。はぎ合わせた生地には「ディッキーズ」のタグや名前を書きこむネームタグがいっぱい付いている。袖にボリュームをとったミリタリーブルゾンや再構築されたボリュームの服が不思議なパワーをはらんでいる。
トップマン・デザインは英国のシーサイドをテーマに、モッズやテディーボーイルックをベースにした細身のスタイルを揃えた。キールックはペールブルーやダスティーピンクのひんやりとした色の軽いテーラードスーツと、クロップト丈のブルゾンやプルオーバーにショートパンツを合わせたリゾートスタイル。そこに、ずっしりとしたビーズ刺繍でできたソフトクリームやヤシの木、人魚のアップリケを散らしてユーモラスに遊ぶ。(写真=catwalking.com)