新ディレクターでブランドイメージを探る
【パリ=小笠原拓郎、青木規子】17年春夏パリ・コレクションは、新たなデザイナーを据えてリブランディングを進めるコレクションが相次いでいる。サンローランやランバンに続き、この後もいくつかのブランドが新ディレクターによるコレクションを準備している。新たな才能を迎えることで、どう変わるのか。それが楽しみな半面、変わらないことへのノスタルジーも感じるシーズンとなっている。
ビクトリアンとジャポニズム…ドリス・ヴァン・ノッテン
ドリス・ヴァン・ノッテンのショー会場に入ると、氷柱の中に閉じ込められた花のオブジェが置いてある。東信によるこのフラワーアートと氷が溶けてきしむ音が、観客たちを出迎える。そんな静かな空気の中で始まったコレクションは、白と黒をベースにたくさんの花柄をのせたもの。写実的な花、点描のような抽象的な花、素朴なコットンから艶やかなサテンにまで花が描かれる。
オーガンディやチュールのような布を重ね、花柄をぼんやりと透かして見せ、あるいはビクトリアンのモチーフと組み合わせる。首元にオーナメントの装飾を飾ったトップがクラシックな気分を添え、スリーブにボリュームをとったブルゾンが厳粛なムードを運ぶ。テーラードスタイルはウエストにダーツを入れて絞ったフォルム。足元は彫刻的なチャンキーヒールのサンダルとともに、下駄のようなものまである。「ビクトリアンとジャポニズム」からインスピレーションを広げたコレクションとなった。
ランバンは新たなクリエイティブディレクターにブシュラ・ジャラールを迎えて初のショーを見せた。縦長のシャープなフォルム、パンツルックにテーラードジャケット、フェザー刺繍。それはこれまでのランバンのフェミニンなエレガンスとは一線を画す、ブシュラ・ジャラールらしいラインだ。レースのスカートにもトップはバイカージャケット、ボザムの飾りを強調したオーガンディの白いシャツなど、ミニマルな中に静かにエレガンスを主張する。ドレススタイルはクラインブルーのミドル丈や透け感のあるフラワープリントドレス、オフショルダーのアシンメトリードレスなど。シンプルなカットでランバンの歴史に新しい1ページを開いたが、市場の反応はいかに。淡々と新しい時代に身を委ねるのか、それともアルベール・エルバスへの郷愁にさいなまれるのか。今後に注目したい。
メゾン・マルジェラのコレクションをどうとらえていいのか。それをここ数シーズン、ずっと悩んできた。ディテールやアイデアはとてもマルジェラらしいもの。だが、本来、マルジェラが作り上げたコンセプトワーク(匿名性、デコンストラクト、シャビーなど)はもう、歴史の中に組み込まれ、新しいものではなくなった。それならば、形だけをなぞることにどんな意味があるのかと。この春夏、ジョン・ガリアーノはそこに折り合いを付けることに成功した。ディテールやアイデアにはデコンストラクトのマルジェラらしさが残っている。しかし、ダイビングスーツを解体したポップなドレスやタイポグラフィーのパッチワークシャツ、レースやレイヤードトップの色のバランスが純粋に楽しい。水中ゴーグルのようなアイウェアを含め、今シーズンの密かなテーマであるDIY(手作りのカスタマイズ)への共鳴を感じさせるコレクション。