〈フィジカル〉
鏡に包まれた空間になだらかな坂、いくつもの柱。カレイドスコープの中のテアトル(劇場)のような演出で、エルメスのショーが開かれた。
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自由の再考をコンセプトに、服と体の新しいつながり、新しいエスプリを探求したコレクション。セカンドスキンのような質を極めたレザーと天然素材で、純化したスタイルに仕上げた。ストレートなシルエットのブラウンのラムスキンコートはメゾンを象徴するタブスタイルの留め具と馬具のボタン。ポロスホワイトのストレッチシルクニットのボディースーツとラムスキンのミニスカートにコースタルブルーのカシミヤのダブルフェイスジップコートを羽織り、春空のような軽やかなスタイリングを描く。足下にもポロホワイトのサボ。一見、ミニベストとタックパンツのアンサンブルは、後身頃とパンツをつなげたグレンチェックのジャンプスーツ。タブリエは丈を伸ばしながらサロペットやコートへと変化する。
コロナ禍で「プロテクション」を取り入れたコレクションが多い中、アーティスティックディレクターのナデージュ・ヴァンヘ・シビュルスキーは、バックレスやヒップを大胆にくり抜いたボディースーツ、バンドで体に自由をもたらし、未来への静けさと確信を表現する。フィナーレではゴダールの「軽蔑」のメインテーマのリミックスが流れた。
(パリ=松井孝予通信員)
〈デジタル〉
エルメスのショーのデジタル配信を前に、シーズンのコンセプトを伝える分厚いスクラップブックが届いた。移ろいゆく淡色の空、彫刻、アマガエル、ダンスの躍動感、そんな写真がちりばめられている。そのスクラップブックとともに見たデジタルショーは、エルメスらしいレザーを軸にしたコレクション。ハーネスモチーフのドレスにレザーのチューブトップ、たくさんのベアバックトップといったデザインが目立つ。ワントーンの静かな色で見せる新作は、ここ数シーズン見た中で最もミニマルなライン。
しかし、それゆえにカットが際立つ。ベアバックトップは背中だけでなく腰骨をあらわにして、ウエストからヒップへの大胆なコントラストを描く。静かな色に秘めた構築性が、このメゾンに連綿と受け継がれる美の象徴のように感じられた。
(小笠原拓郎)