23年春夏パリ・メンズコレクション ジェンダーを巡る新提案

2022/06/28 06:28 更新


 【パリ=小笠原拓郎】23年春夏パリ・メンズコレクションは、本格的なフィジカル復活を印象づけた。それぞれのブランドが自らのバックボーンやアーカイブをひも解き、今の時代との着地点を探っている。その中で気になったのは、ジェンダー(性差)を巡る表現だ。新しい男性像を描くうえで、ジェンダーを切り口にするコレクションが新鮮に映った。

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 逆立てた髪、不気味なマスク。コムデギャルソン・オムプリュスはピエロをモチーフにしながら、ジェンダーを意識させるコレクションを見せた。コートは裾に向かって緩やかに広がるシルエット、裾にはボーンを入れて張りを持たせる。ハーフパンツも裾にボーンを入れて、歩くたびに弾むように揺れる動きを作る。コートの後ろにはティアード状に布を重ねた装飾。それもまたレディスのドレスのようなテクニックだ。バックやサイドのファスナーを開いてフレアラインを作るコート、中に着たシャツでさえボーンで立体的なフォルムを作る。

コムデギャルソン・オムプリュス

 ボーンで描く立体フォルムに目を奪われるが、そこに細かな柄の配色や切りっぱなしのローエッジなテクニックを重ねて迫力を生み出す。ジャケットのヘムはジグザグにカットし、マルチカラーのダイヤ柄やドットを差し込む。ピエロの衣装からの引用であるとともに、どこか毒気のようなものを感じることができる。パッチワークチェックのテーラードスタイルも複雑なはぎ合わせでクオリティーを感じさせる。

 フォーマルイメージのブラックのシリーズもクラシックなフォーマルとは一線を画す。ラメとビジューを散りばめたジャケットはギザギザのヘムライン。パンツにもギザギザの布を重ねて動きを作る。前身頃の布地を切り裂いて中の芯地をあらわにしたジャケットは、むき出しの強さを感じることができる。22年春夏がロングシャツの体裁のドレスルックでジェンダーの超克に挑み、22年秋冬がマスキュリンなテーラーリングの解体再構築を進めた。それに続く今シーズンもまた、クラシックなドレスの代表的な表現であるボーンのテクニックをメンズテーラーリングに持ち込んで、現代におけるジェンダーを超えた表現を一歩進めた。そんなことを論理的に考えながらも、ボーンの立体のメンズ服が純粋に楽しくて新鮮であること。それをすんなりと感じられたことの方が大切なのかもしれない。

 テーマは「ANOTHER KIND OF PUNK」(もう一つのパンク)。中世における宮廷道化師が癒やしを与える存在だけでなく、パンク精神の持ち主であったと想像したことがコレクションの出発点。

 ロエベのショー会場は白い斜面のあるスクエアな空間。まぶしい光を浴びながら、そこをモデルが下りてくる。春夏は自然への憧憬(しょうけい)とテクノロジーの両極にアプローチしながら、ジョナサン・アンダーソンらしいミニマルなラインに収めた。レザーコートは、フロントにスマートフォンをはめ込むためのパーツが型押しで作られている。たくさんのデジタル画面を映し出しながら歩くマキシ丈のコート、魚の映像を映し出すフェイスマスクといったハイテクを背景にした服やアクセサリーが登場する。その一方でスニーカーやコートには草が生え、スウェットパンツはグラデーションのように苔(こけ)むした表面になっている。

ロエベ

 そんなコンセプチュアルなクリエイションでありながら、アイテム構成としてはとてもシンプル。とりわけレギンスを軸にしたコーディネートはミニマルであると同時にジェンダーへの意識も感じさせる。たくさんのレギンスと合わせるのはコートやシャツ、プルオーバー。コートとフーディーはロエベらしい上質なレザーに美しい色をのせている。フーディーやプルオーバーもスウェット地ではなく薄いシアリングでできている。シンプルに見えながら、そこにはきっちりとロエベのクラフトテクニックが散りばめられている。ゆったりしたブーティーとレギンスを合わせたスタイルは、ウィメンズで出てきてもおかしくないようなコーディネート。ボトムをほとんどこのアイテムにして、トップとのメリハリで描くコレクションに潔さと新鮮さを感じることができた。

ロエベ
ロエベ

 ジュンヤワタナベ・マンはアメリカンカルチャーを背景にした。ポップアートを代表するアンディ・ウォーホルやリヒテンシュタイン、ストリートから派生したアートの代表のキース・ヘリングやジャン・ミッシェル・バスキア。アメリカを代表するアート作品をさまざまなアイテムにプリントやアップリケでのせていく。ジャケットのフロントにはリヒテンシュタインの絵が全面に描かれ、デニムにはウォーホルのキャンベル缶やマリリン・モンローがプリントされる。

ジュンヤワタナベ・マン

 ブランドが得意とするワークアイテムやジーンズそのものがアメリカンカルチャーを反映したアイテムでもあるが、今回はそこにコカ・コーラやハンバーガーといったアップリケが重ねられる。もちろんこのブランドらしく細かなパッチワークデニムなどの手仕事も忘れない。渡辺淳弥の視線からのアメリカへの憧憬がいっぱい。

 カラーはここ数シーズンずっと、服のパーツの足し引きをしながら新たなバランスを探っている。テーラーリングにスポーツウェア、シャツやニットといったアイテムは混じり合い、浸食しながら新しい落としどころを探り当てる。テーラードコートの襟元にシャツの襟がちょい足しされて、ゴム引きコートは襟が片方だけ2枚重なる。コートにチルデンセーターが重ねられ、フィールドジャケットはずれながら2枚のアイテムが重なり合う。シャツとセーターの重ね着がずれて歪み、ニットポロの前立ては斜めにずれる。

 不調和を調和させるとでも言おうか、ノイズを加えながらリズムを作るとでも言おうか。新しいパーツを重ねずらしながら調和するポイントを探っている。やっていることは非常に高度なこと。若手デザイナーが似たようなことをやったとしても、これほどエレガントにはできない。それは一つひとつのパーツやプロダクションのクオリティーが高いレベルにあるからできることでもある。

カラー

 リック・オウエンスのショー会場には、巨大な重機が待機している。ショーが始まると重機は音を立てながら大きな火の玉を運び、水の中へ落とす。一方で服を淡々と見せながら、重機によるパフォーマンスが同時に進行していく。以前も似たような演出をしてきたが、よく考えてみるとシュールな光景だ。

 春夏コレクションはというと、PVC(ポリ塩化ビニル)や箔(はく)の光沢といった素材が軸。この間、ずっと出していたビッグショルダーもあるが、ショルダーラインは縦に伸びるビルトアップショルダーとなった。アイコニックなスタイルと言えそうなのがアシンメトリーなドレスをレイヤードしたもの。斜めにカットして大胆に脚をのぞかせるドレスのようなアイテムをジャケットやショートパンツとともに重ねていく。構築的なテーラーリングに揺れるように流れるドレスのドレープがコントラストを成す。

リック・オウエンス

 アミパリスは、パリの街並みを一望できるサクレクール寺院の前にショー会場をしつらえた。そこに登場するのはダイバーシティー(多様性)を感じさせるモデルたち。さまざまな体形や年代のモデルが、トラディショナルを背景にしたスタイルで現れる。ブレザーとデニムのフレアパンツ、メッシュのインナーと重ねたシャツやコート。スカーフまでさらりと合わせてBCBGのイメージを強調する。

アミパリス

(写真=コムデギャルソン・オムプリュス、ジュンヤワタナベ・マン、カラーは大原広和、リック・オウエンスはOWENSCORP、他はブランド提供)



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