鉄鋼、産機・インフラ、繊維、食糧の4つのコア事業を複合的に展開する日鉄住金物産。今年度から着手した中期経営計画でも、複合専業商社として、国内外のバリューチェーンの更なる強化・拡充に取り組む考えだ。個の強み、集団の強みを兼ね備える繊維事業も、「マネジメントとデジタル」を重視しながら、アパレルOEM・ODMに磨きをかけている。自らの機能をブラッシュアップすることで、さらに高いステージへ進もうとしている。
川中の価値再構築を掲げる
―このほど中期経営計画(18~20年度)を公表した。
全社ベースでは各事業領域でデジタルイノベーションに対応する方針を出しました。繊維事業でも「川中の価値再構築」を掲げるとともに、「マネジメントとデジタル」を打ち出しながら、アパレルOEM・ODMに磨きをかける考えです。
川中の価値再構築とは、これまでに培った企画提案力や生産・物流・販売ノウハウをさらに進化させ、業界を牽引するソリューションODMへ転換しようということ。その一環で4月にイノベーション推進室を設置し、AI活用によるR&D機能の高度化、マスカスタマイゼーションやスマートファクトリーといった生産面での対応、IoT(モノのインターネット)、EC、革新技術などへの事業投資を推進していきます。
―事業環境は楽ではない。
我々の置かれているファッション業界の状況を説明すると、過去に商社が得意としてきた従来型マーケットが苦戦を強いられていると言えます。人口減、高齢化も、消費にマイナスの影響を与えています。グローバルに考えた場合、アパレル市場は拡大していますが、国内市場は厳しい状況です。 足元が厳しいのは、昨年辺りから、顧客の在庫、仕入れ抑制が顕著になっていることが背景にあります。売値が上がらない一方で、生産コストは上がり、下がることがない。こんな状況が続いています。生産については、ASEAN(東南アジア諸国連合)での機械貸与、ライン契約を推進。中国でも大手優良工場との取り組みを強めていますが、様々なコストが上昇し、原価を抑えた物作りが難しくなっています。ですが、そんな環境下でも、工場キャパを専有し、企画提案し、きちんと物を作って、顧客に提供する、そこに我々のポジションがあると確信しています。
我々も変わらなければならない
―物を作る上で、マネジメントとデジタルが大切になる。
世の中は無駄な物を作らない傾向が強まっています。こうした時代の変化に対して、我々も変わらなければなりませんし、専門知識、物作りなどのマネジメントの精度を上げたいですね。事業ドメインであるOEM・ODMを日鉄住金物産らしく運営し、もう一度磨きをかける、このためのキーワードがマネジメントなのです。素材、物流、企画開発などいくつかの項目でタスクフォースを設置し、マネジメントの充実を急いでいます。当たり前の事ですが、商社の仕事は人材が基本。人を育てることもマネジメントです。人材育成には全力を注ぎます。
デジタルには様々な側面がありますが、我々が繊維事業で捉えているOEM・ODMに関わるデジタル化は大きく三つ。ひとつは縫製工場の仕掛、進捗管理で活用することで、効率と品質をさらに上げます。二つ目は社内業務のデジタル化、見える化です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)なども活用し、社内でのデジタル化を加速させます。三つ目は受注に至るまでの企画提案等への活用で、3Dグラフィックなどを用いて、時間短縮を実現したいですね。
仮説を立てて、間合いを持って
―イノベーション推進室は重要な役割を担う。
AIなどのテクノロジーが進化し、ECも伸びています。ファッションビジネスにおける物の流れが変わったのだと理解しています。繊維事業本部内に新設したイノベーション推進室は、4人体制でスタートしました。イノベーションに関わる案件、取り組みの窓口としての役割を果たしていきます。社内で出来ることは限られますので、外部との連携も視野に入れています。
イノベーション推進室が手がけるのが、事業投資になるのか、アライアンスになるのか。現段階では分かりませんが、相手から話が来て、そこからどうするか、ではなく、自分達で仮説を立てて、間合いを持って、次の事業の芽を見つけます。
―改めて日鉄住金物産の繊維事業の強みとは。
顧客の要望にしっかり応えて、信頼を得ていることでしょうか。そして実際に物作りに携わって、現場を理解していること。素材、企画提案も大事ですし、生産管理も同様です。商社の繊維ビジネスとしてデジタルプラットフォームを構築すべきという議論がありますが、プラットフォームを作るだけでなく、汗をかいて、実際に物を作らないと人材は育たないし、本当の力は付きません。日鉄住金物産らしいアパレルOEM・ODMを確立、進化させながら、次の芽を育てていきます。
2021年トピックス
物作りがベースであることは不変
今、手を打っていることが形になって、流通、マーケットが変化してもOEM・ODMで存在感を発揮できているのではないでしょうか。国内市場は当然として、グローバル市場でも存在感を示していたいですね。現時点では海外企業向けの供給はなかなか進んでいませんが、自分達のプラットフォームを構築し、グローバル市場を攻略します。プラットフォームを作るだけでなく、汗をかいて物作りに携わること。それが血となり、肉となっていくのです。デジタル化が進み、世の中が変わったとしても、物作りが必要とされるということは変わりませんので。
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