先日、奈良にあるAYAMEの生産工場に行ってきました。奈良の広陵といえば、靴下の一大産地です。私、会社員時代も含めると10年以上もの間、年に数回この地に来ています。
36年の人生で、住まいがある東京をのぞくと一番多く訪れているのはここ広陵町で、東京から片道4時間半かかるのですが、相変わらずの平和な盆地の空は東京でガシガシ働いている私の心を和ませてくれ、もはやここに来るとホッとするぐらいの愛着があります。
さて、工場はものづくりの現場です。AYAME靴下が作られていく工程において、ものづくりや素材の選定はデザインを支える土台のようなもので、そこにデザイナーの感性や価値感がプラスされ全体を刺激してプロダクトが作られていきます。
私、デザイナー自身がものづくりの現場とどのように向き合うかというのはとても重要なポイントであると思っていて、どんな高い素材を使おうが、お互いの息が合っていないと良いプロダクトは生まれ得ないと思っています。
下の写真は、編み地をデータ化する作業です。靴下編み機のどこの糸道に、どのぐらいの番手の、どの糸を何本食わせるかを決めていくのですが、AYAMEでは適合番手とされる糸の太さをセオリー通りにセットせず、あえて「食わせ過ぎ」たり、「食い足らない」ようにして、何回も研究し、絶妙な風合いを探し続けています。
日本の靴下生産は一つ一つの工程がとても繊細で、強度や品質を保つために、その作業一つ一つに緻密さが要求されます。それは機械の編み立てとて同じことで、日本人ならではの几帳面で丁寧な気質がそっくりそのまま商品の表情を作り上げています。
最近は私自身が機械を動かしながらサンプルを編み立てるということは無くなってきましたが、AYAMEを始めた当時は毎シーズン何日か工場に泊まりこんで、自分自身で機械を動かして編み立てをしていました。デザイナーもある程度は機械のことを理解していないとね、という方針ですので。
靴下業界に限ったことではありませんが、近年ずっと言われている業界全体の問題は、国内生産量の減少です。低価格を追求すると、生産を国外に持って行くしかないのは、靴下業界での事だけではないですよね。
この話は産地に行くと頻繁に話題に上り、工場の社長や専務、技術者の皆さんと私で、お酒を呑みながら、あーでもないこーでもないと論議するのですが、解決の糸口は中々見つかりません。何しろ一人が頑張ったところでどうにかなる問題ではないからです。
小さいブランドには小さいブランドにしかできない事があります。それは、工場の持つ技術を最大限に引き出すような商品づくりです。
精妙で優美なものは、得てして時間と手間がかかります。靴下編み機の低速回転生産や、針が飛んで生産効率が落ちてしまう事もしばしばですが、日本のものづくりの真髄を商品を通して伝えるためには必要な事だと思っています。
これは、何百人分の給料を利益から出さなくてはならない大手企業でやろうと思うと非常に難しい。ですから、素材と編み機と工場の特性を活かすデザインを考え抜き、日本産の技術を引き出していく事は、我々のような小規模クリエーターの役割であると思っています。
昨年11月に開催された靴下の日シンポジウムで、元同僚で友人でもあるレッグウェアデザイナーの斉藤誠矢くんがこんな事を言っていました。「日本では、日本産の手間ヒマかかった高品質の商品が安く売られ過ぎている」と。私もホントにそう思います。
AYAMEの靴下は、クォーター丈の普通の物で1,800~2,400円ぐらいするので、人によっては「高い」と感じる方もいらっしゃると思いますが、手間とクオリティを考えたら妥当な値段だと思います。長もちするというパフォーマンスも考慮すると、むしろ安いかもしれない。
AYAMEのような小さいブランドでは、どう頑張っても出せる発注数に限界があります。だから、大手企業にこそ国内の工場に発注を出して欲しい、と個人的には思っています。大手企業には大手企業にしかできないことを業界の為にやって欲しいのです。ドンとまとまった生産数量を国内工場に発注して、機械を回転させ続けて欲しいのです。
そして、できれば、かかる手間に対し妥当な価格で市場に出てくれれば良いと願うのですが、それが中々難しいということは、私も理解しています。
いやー、ホントに難儀な問題なんです。今回もまた、まとまらない文章になってしまいました。でも、抱える問題を考え続けたり、関わる皆で話し合ったりすることは決して無駄ではないと思います。
そうすることで、其々が今自分達にできる事を精一杯頑張らなきゃと思いなおすし、私も、AYAMEの複雑で面倒くさいものづくりに毎度付き合ってくれる工場さんに、感謝の気持ちを忘れずにいられるからです。私、気を抜くとすぐエゴが全面に出てきてしまう性分なので笑。
最後に今季の力作を写真でご紹介します。スプリンクルズという名の靴下です。
パリの展示会で、某ビッグメゾンの雑貨デザイナーがAYAMEブースに立ち止まり、この靴下を見て、「EXQUISITE!NEVER EVER SEEN BEFORE! どうやって編まれているか全く想像がつかないYO!」と言っていました。フフフどうだ、日本の技術はすごいだろう。おわり。
気鋭の靴下ブランドAyame’の活動記録。現在年2回、東京、パリ、ニューヨーク、ロンドンにてコレクションを発表、Made in Japanの靴下を世界に発信中 あがおか・あや/Ayame’socksデザイナー/桑沢デザイン研究所卒/2007年Ayame’設立