色落ちしない染料で色落ちしたような風合いを――カットソー生地染色の豊染工(和歌山市)は、コロナ下に実現した特殊な染色加工技術を生かし、21年11月にファクトリーブランド「フィールアンドワイ」(FEEL...Y)を立ち上げた。同時にファクトリーショップも設け、直接商品の魅力を味わってもらうことを重視。ブランドを手掛ける田中大幹専務は、「物作りの黒子である染工場のチャレンジだが、新しい問い合わせはいくつも来ている」と手応えを話す。
同社は、ニット(メリヤス)産地の和歌山の中でも、生地での染色を主体にする数少ない工場だ。ブランドと同時期に実現し製品作りに使っている染色技術は、反応染料を使用しながら、硫化染めしたような経年変化のアタリ感を出すもの。アタリ感はあるが、反応染料なので、洗い込んでも基本的にそれ以上は色の風合いは変わらない。
「ピールオフ」と名付けたこの染色は、約20年前に開発に着手したことがあった。だが、当時は量産品の受注がまだまだ多く、着手したものの手が回らない状況だった。その後、コロナ禍に突入して状況が一変。量産オーダーが減り、特徴のある商品に対するニーズが高まったことを受け、3代目にあたる田中専務が開発を再開し、実現にこぎ着けた。
ピールオフは、同社が昭和20、30年代から活用している染色機のウインスと、ウインスのふっくらとした仕上がりをさらにはっきりさせる蒸気式タンブラー乾燥とを組み合わせて具体化する。通常の染色方法と比べ、2・5~3倍の時間が必要になるが、反応染料で独特のユーズド感が楽しめ、「特に濃色はアタリ感が出やすい」。天然染料と違って、移染の心配もない。
自社ブランドを立ち上げ、あえて直営店のみで販売開始したのには、様々な考えやこだわりがある。EC販売をしないのは、「実際に見て触ってもらわないと、風合いをはじめとした商品の魅力が伝わらない」からだ。
卸販売をしないのは、自ら先行して営業をかけて既存の取引先に迷惑をかけないためだ。「自店で技術をアピールし、直接販売をする中で、興味を持ったブランドに声をかけてもらえるのが理想。それなら取引先からのクレームもない」と話す。
直営店の名称は、ブランド名と同じフィールアンドワイ。倉庫だった空間を一部改装し、30平方メートル弱の店にした。新作をはじめ、吊り編み機を使ったスウェットシャツやプルオーバーパーカ、プリントTシャツなどが揃う。価格はスウェットシャツやパーカが1万9800円(税抜き)、プリントTシャツが6000円。
自社ブランドをスタートして1年半が経ち、「ブランドやブランドが採用した染色技術についても問い合わせはある。お世話になっている取引先が新規のお客を連れて来てくれるようにもなった」。直営店の方も、SNSを見て関東などの遠方からもやって来るお客がいる。
今後については、「あえて〝ここでしか買えない〟ブランドとしてスタートしたが、様々な引き合いも出てきた。別注対応を含め卸販売も検討してみたい」と話す。「条件が合えば期間限定店も実施したい」考えだ。