フランスで7月中旬から一時停止していた衣料品回収が、通常に戻った。大手リサイクル事業者ル・ルレが回収作業中止の抗議行動に踏み切ったことを受け、政府と産業界が緊急措置を急ぎ、手を打った。環境移行省は8月、拡大生産者責任(REP)制度に基づき、回収・選別事業者への補助単価を大幅に引き上げる政令を公布した。従来の1トン当たり156ユーロを、25年は223ユーロ、26年には228ユーロに改定する。財源は新品購入時に上乗せされるエコ拠出金で、公費は使われない。総額は5700万ユーロ規模に達する見通しだ。
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産業界も歩調を合わせる。25年初頭に600万ユーロを拠出したのに続き、25~26年にかけて1億600万ユーロを追加負担する。20年以降の累計拠出額はすでに12億ユーロを超え、政府と業界の双方によるテコ入れで、回収はようやく再開にこぎ着けた。
ただし、これで制度疲労に終止符が打たれたわけではない。ル・ルレは「304ユーロ以下では長期的に採算が合わない」と訴え続けており、現場の厳しさは変わっていない。すでに小規模事業者の中には経営破綻に追い込まれた例も出ている。背景には、急増する低品質衣料が分別や再資源化を困難にしていること、輸出市場の停滞で従来の販路がふさがれていることなど、構造的な問題がある。現行のリサイクル制度は08年に設計された仕組みであり、その後に急拡大したウルトラファストファッションの波には対応できていない。
こうした現状を受け、仏ファッション団体は公開書簡を発表した。従来のリサイクルは中古衣料の輸出に大きく依存してきたが、それだけでは持続できないとし、「輸出依存ではなく、完全なトレーサビリティー(履歴管理)を確保し、国内に根差した循環型モデルを構築すべき」と訴えた。団体はフランスを欧州の模範に位置づける目標を示し、政府も年内に新しい「仕様書」を策定、26年からの制度再編に着手する。
回収再開は一時的な安定に過ぎず、真の循環型ファッションを実現できるかは制度再設計の行方にかかっている。
(パリ=松井孝予通信員)