「イトマトペ」は今年1月に伊東敬史(たかふみ)さんと弥子(みこ)さん夫妻が立ち上げたユニセックスのアパレルブランド。岐阜県郡上市を拠点に、武術や芸術での修行の段階を表す「守破離」(しゅはり)の精神を落とし込んだ服作りをスタートした。
(森田雄也)
言葉にできない感情
イトマトペはオノマトペ(擬態語、擬音語、擬声語)に伊東さんの名字の頭文字を合わせる形で名付けた。「言葉にはできないような感情を服を着てもらうことで感じてほしい」(敬史さん)との思いが詰まっている。守破離の精神を服に投影し、基本を大切にしながら、産地や縫製工場と連携して物作りを発展させていくことをブランドの根底にする。世代を問わずに着用できるように、ゆとりのある型紙を心がける。
アイテムはジャケットやシャツ、カットソー、ボトム、小物雑貨までオールアイテムを揃える。こだわりは素材。特に「世界的に見てもナンバーワンだと思っている」と太鼓判を押す遠州産地で織ったリネンを多用する。リネンは夏はもちろん、糸の番手を太くし、生地を厚めにすれば暖冬が続く日本では「十分にアウターの素材としても使える」と強調。産地企業と話し込み、定番的に使う生地は在庫を抱える。
各アイテムに古くから日本で伝わる魔よけの刺繍と言われる〝背守り〟を手刺繍で入れるのもこだわりだ。
24年1月には東京でファーストコレクションとなる展示会を単独で開催。知人のほか、敬史さんの出身地である高知県のセレクトショップのバイヤーらが多数来場した。24~25年秋冬物を披露し、特に100センチ近いリネン100%のロング丈のスリット入りユニセックスシャツ(税抜き4万7000円)が人気だった。
10月には物作りの拠点である郡上のオフィスで展示会を開催する予定。シーズンは問わず、1月展からの継続を15型、新作15型を並べる。シャツやパンツ、軽アウターでそれぞれ4万~7万円程度を想定する。
同時に、オフィスの一部を改装してショップにして販売するほか、そこでリペアも受ける。また、物作りの過程で出た生地の端材を集めて作った一点物のアイテムなどの販売も想定する。
さらに、海外からの購入にも対応するECショップも開設する予定だ。1月展に立ち寄った海外客が服を購入していったことから決めた。
二人三脚で物作り
敬史さんは、文化服装学院のアパレル技術科でパターンメイキングを学んだ。卒業後は縫製技術を身につけたいと思い、岐阜県羽島市にある縫製工場に就職。そこで弥子さんと出会った。その後、会社を辞めて東京に戻るのを機に結婚。東京にオフィスを構える雑貨製造卸企業に品質管理担当として転職し、その後、東京や京都のデザイナーブランドなどでも品質管理として勤めた。
京都にいたとき、子供が生まれたのをきっかけに、弥子さんが生まれ育った郡上に今年4月に移住。郡上おどりで有名な、郡上八幡に企画縫製室を構えた。
デザインからパターン、トワルチェックは敬史さん、縫製は弥子さんと役割を分担し、互いに意見を出し合って、良い物作りを追求する。
8月に郡上市内のスクリーン印刷企業の若手メンバーで構成するチーム「グランド」による郡上おどり用のブランド「グジョー・オドリギ・アソシエーション」の立ち上げにもパタンナー兼縫製ディレクションの立場で関わるなど地域との関係もできてきている。
今後は「量産品を郡上で縫っていくなど、地元とのつながりを強めていきたい」と意気込む。