実店舗が生き残っていく上で、小売店の新しい在り方が必要になっている。高級ラグジュアリーブランドは特に、オンラインでは得られない買い物体験やスペシャル感が求められ、今までになかった工夫が必要になってくる。その場合、そのブランドにしかない背景や歴史をうまく活用することが、大変な強みになる。
高級バッグブランドの「ヘイワード」は現在、バーグドルフグッドマン、ビバリーヒルズのニーマンマーカス、セレクトショップのトトカエロの他、カナダのホルトレンフルー、ロンドンのセルフリッジズ、トルコのハーヴェイニコルズに卸売りしている。日本では、ユナイテッドアローズ、ドゥジエムクラスなどに入っている。小売価格帯は、490ドルから3000ドルまで。ものによっては、25000ドルを超えるバッグもある。デザインは至ってシンプルで、素材と色で高級感を出している。
そのヘイワードの唯一の直営店である旗艦店は、アッパーイーストサイドの閑静な住宅街にあるタウンハウス(特定の1家族が所有する3~4階建てくらいの一戸建て住宅で、奥行きがある。ニューヨークにあるタウンハウスは19世紀に建てられたものが一般的)の2階にある。
ブランド名は入り口に小さく表示され、そこに店があると知っている人でなければ気づくことはないだろう。このタウンハウスは1870年代に建てられ、建築家の故グロブナー・アッターベリーが1909年に買い取って改装し、1911年から住んでいた。
隠れ家のような店だが、そこが顧客の心をくすぐるに違いない。お客は近所に住む女性、ダウンタウンに住んでいながらアップタウンならではの経験を求めている女性、裕福な海外旅行客までいて、記事やインスタグラム、友人からの口コミでこの店の存在を知るという。
タウンハウスの中に入り、螺旋階段を上がった2階が、2015年5月にオープンしたヘイワードの旗艦店だ。広さは200平方メートルあまりで、暖炉の前に大きなソファとコーヒーテーブルがあり、誰か裕福で由緒あるお宅のリビングルームに招かれた気になる。
ヘイワードをデザインするのは、俳優兼映画プロデューサー兼フォトグラファーの故デニス・ホッパーを父に、女優のブルック・ヘイワードを母に、そして母の親友のジェーン・フォンダをゴッドマザーにもつメアリン・ホッパーさんだ。
メアリンさん自身、70年代はニューヨークに住んでいたが、その後ハリウッドに25年住み、1995年から2000年まではエルでファッションディレクターをしていた。夫でヘイワード社のCEO(最高経営責任者)を務めるジョン・ゴールドストーン氏は、映画とテレビのプロデューサーである。
メアリンさんはトッズとホーガンを所有するデッラ・ヴァッレ家と仕事をしていたこともあり、その時に家族の歴史を商品に反映させるアイデアを思い付いたという。つまり、ハリウッドのサラブレッドなのでこうした豪奢なタウンハウスを旗艦店に使うことも可能なわけだが、この店にわざわざ買いに来るお客にしかできない体験を提供してこそ、こうした旗艦店を設けた意味があるというものだろう。
訪れたお客たちは、端正な男性販売員たちにうやうやしく迎えられる。女性たちをいい気分にさせようという意図なのか、販売員は男性のみにしているという。部屋の中もさることながら、ここに行ったらトイレも必見。トイレの壁にはファミリーツリー(家系図)が描かれていて、トイレに一度入ったらしばらく出てきたくないくらい見入ってしまう感じだ。そうしたネットではできない体験をいかにつくっていくか、それが実店舗の在り方に大きくかかわってくる。
ヘイワードはバッグのみだが、別途メンズブランドの「ホッパー」があり、ホッパーはTシャツ、革小物、帽子、サングラス、ホームなどいろいろなアイテムがある。Tシャツの柄はデニス・ホッパー自身によるデザインをプリントしたもので、サングラスは日本製。
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)