ベルリンを訪れた人ならすでにご存知かもしれないが、5年前には、日本食レストラン(アジアンフュージョンではなく、きちんと”日本食”と言える店)は数えるほどしかなかった。それが、今では新規開拓にどこに行こうか悩むほど次々とオープンを果たし、今もなおその勢いは続いている。
ラーメン屋ブームの次は居酒屋ブームであり、いわゆる日本にある居酒屋スタイルをそのまま再現した店から、コースのある高級店、モダンな内装で一見カフェにも見えるオシャレな店など、バラエティーに富んでいるのも特徴である。
そんな居酒屋ブームと合わせて注目されているのが日本酒である。ベルリンで日本酒と聞けば、世界的テクノDJであり、日本酒好きでも知られるリッチー・ホーティンが手掛ける”ENTER Sake”が最も有名であるが、他にもベルリン発の日本酒メーカー”合SAKE”やドイツ人主催による日本酒イベントが開催され、小さなイベントも含めたら数え切れないほど。
ヨーロッパにおける日本酒人気はどこに行っても聞く話だが、実際はどうなのだろうか?寿司やラーメンのように市民権を得るまでになったのだろうか?
そんな中、友人が音楽やアート展示に合わせて日本酒を振る舞うイベントを開催するということで、2つのイベントに参加し、その様子をレポートさせてもらうことにした。
日本人主催による日本の伝統文化を伝えるイベントはこれまでに何度も開催されており、そこで日本酒が販売されていることも珍しくないが、ベルリンで手に入る日本酒の種類は限られてしまっている上に高い。
取材させてもらった2つのイベントでは、インパクトがあり、希少価値の高い日本酒にこだわりたいということで、アムステルダムを拠点に日本酒の卸販売事業を行っている”otemba sake”から広島の特別純米酒”夜の帝王”とゆず酒を取り寄せていた。
”otemba sake”はフランスの品評会『Kura Master2019』などで数々の賞を受賞している”八戸酒造”をはじめとする日本有数の酒蔵から厳選した日本酒のみを扱っており、ヨーロッパにおける独占販売を行っているという。
1つ目のイベントは、ノイケルン地区にあるカフェPlumにて、ベルリン在住のカーヌーン奏者Shingo Masudaによるライブが行われた。カーヌーンとは、アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器のことで、台形の箱に多数の弦が張り巡らされており、日本の琴のようにつまびいて弾くもの。初めて聴くカーヌーンの音色はうっとりと聴き惚れる美しさと癒しがあり、トリックが仕掛けられてるかのようないろんなパターンで音が出るカーヌーン自体に釘付けとなった。
同カフェは飲食スペースの奥にイベントスペースを構えており、普段はドイツ語教室として使われているという。オーナーのドイツ人女性はそっちに専念しており、カフェは運営してくれる人を探しているという状況。当然ながらドイツ語が堪能で働けるビザがあることが最低条件だが、ギリシャフードのケータリングが入ったり、今回のように日本人主催による異文化イベントを開催出来る環境があるというのがベルリンならではだと思った。
2つ目のイベントは、刺青の和彫り専門スタジオ”Hanabusa studio”で開催された「お茶の間じかん」と題された1週間限定のエキシビジョンのオープニングへ。縛りアーティストCoCo Katsuraによるベルリンから見た日本の美しき事柄に縛りという表現方法を加え、Dominik Schulthessが撮影した写真を展示。一見イラストに見える写真は和紙にプリントされており、淡くて上品なカラーが日本の礼儀正しさを感じさせ、そこに縛りが入ることによってエロスを彷彿させる世界観が良かった。また、オープニングでは、舞踏アーティストのSana Sakuraによるパフォーマンスが行われ、会場内は満員の大盛況となった。
日本酒に関しては、両イベントともゆず酒が人気で、珍しさや一口飲んでその味に驚く人が続出していた。柑橘の甘さと酸っぱさのミックスが日本酒と絶妙なコンビネーションでジュースのように飲みやすい口当たりでクピクピ飲めてしまう。日本人や酒通のヨーロッパ人は断然、純米酒!といった感じで飲み方や合う料理について語っていたが、確かに、おちょこやショットグラスでゆっくり味わいながら飲む日本酒には、食べ物の存在が重要だと感じた。
また、改めてベルリンには様々な日本人アーティストがいることを知った。自分の表現したいことが自由にでき、それをきちんと評価してくれる人がいるこの街はやはり魅力的なのだと思った。今後も日本酒の広がりとともに日本人の活躍も追っていきたいと思う。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。