愛知県南西部に位置し、常滑市や知多市などが属する知多半島。そこで常滑焼の大甕(おおがめ)、知多木綿の布、知多酒を用いて、畑から染料作り、染色までを一貫して行う藍染めを「知多藍」と名付け、発信する人がいる。桑山奈美帆さんは地元・知多半島をPRするため、藍染め職人となり常滑市に工房を作った。かつては地域に根付いていた藍染め文化を復活させ、藍を通して、物作りで発展してきた知多の魅力を伝える。
(森田桃子)
知多の歴史を今に
藍染め職人らしい青く染まった手を見せ「実は好きな色はピンク、緑」と笑う桑山さん。「地元のためになることをしたい」という思いが、藍染め職人を志す出発点となった。大好きな地元を盛り上げるためにできることを探している時、出合ったのが藍染めだった。
新卒でアパレル販売員として働いていた当時、デニムが流行した。その藍色が「かっこいい」と魅了された矢先、偶然、地元の知多半島にも藍染めが盛んな時代があったと知った。
有松・鳴海絞が生産される有松は、現在名古屋市緑区だが、「70年ほど前までは知多郡に属していた。そのため、知多半島全域で、内職で絞りをしていたし、それを染色する藍染め屋が存在していた」。今でも当時を知る人が残っていると話す。
「もし地元で藍染めの文化を復活させたら、みんなが喜んでくれるかも。地元をPRできるのでは」と考えた。藍染め職人を目指すために仕事を辞め、岐阜県郡上市の石徹白洋品店で3年間修業。21年に常滑に戻り、「紺屋のナミホ」の屋号で藍染め工房を立ち上げた。

地域みんなで作る
藍の葉は4月に種を植え、7、8月に葉を刈り取り乾燥させ、10~12月にかけて発酵させることで蒅(すくも)と呼ばれる染料を作る。
藍は、桑山さん自ら1反半の畑を耕し栽培するほか、周辺の農家や一般の人約40人の協力を得て、毎年甕8個分を調達。染色に必要な酒・ふすま・貝灰・灰も、知多市と常滑市の酒造や窯元、飲食店の協力を仰ぐ。
天然染色に加え、完全「知多メイド」が強みとなり、現在の活動の柱は売り上げの6割を占める外注だ。アパレルメーカーやインナーメーカーからのオーダーのほか、知多ならではの商品として中部国際空港の土産品製造も手掛けている。
自社ブランド「すくすくすくも」では、家族で着られる藍染めのアパレルブランドを販売している。ベビー用のおくるみや前掛けのほか、子供向けのワンピース(税込み1万2100円)、大人向けワンピース(2万2000円)などがある。
そのほか工房でのワークショップ活動にも力を入れ、知多に来てもらうきっかけを作っている。
知多産といっても、藍染めの作業も発色も他産地と大きく違いがあるわけではない。それでも、かつての藍染めに加え、今でも残る常滑焼や知多木綿、知多酒など、物作りで栄えてきた「知多藍ならではの背景やストーリー性を感じてもらいたい」。今後は、自社ブランドの県外発信にも力を入れる。