岡山・玉野市のフェスに初出店 社会還元型アイテムの思索《プラグマガジン編集長のローカルトライブ!》

2025/11/21 12:30 更新NEW!


瀬戸内コンテンポラリーに出店したプラグマガジンブース

 岡山県玉野市で、音楽とマーケットが融合したフェス「瀬戸内コンテンポラリー」が11月15日から2日間にわたり初開催されました。『プラグマガジン』も「デニム」というオーダーを受けて早々にブース出店が決まったのですが、直感的に「収益」を目的としない方向を選びます。一方で、通り一遍のカタルシスや凡庸なシビックプライドの語彙(ごい)に当てはめられることを嫌う面倒な性格もあり、着地点の見極めに時間を要しました。本稿では、この過程で向き合ったいわゆる「チャリティーグッズ」という概念について、私見を述べたいと思います。

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「赦し」を売らない

 スロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクは、あるコーヒーチェーンを例に挙げ、コーヒーを買えば生産者支援など「自分の消費に倫理的な償いを付与できる」という広告メッセージを痛烈に批判しました。

 彼はこのような「消費しながら赦(ゆる)しを買う」ロジックを典型的な「文化的資本主義」と呼び、オスカー・ワイルドの言葉を借りて「慈善はしばしば問題の本質を覆い隠し、体制を延命させるだけだ」と指摘しています。こうした批判を踏まえると「なぜチャリティーグッズを作るのか?」という問いに答えるのは容易ではありません。

 また、社会貢献活動を結びつけてプロモーションする「コーズマーケティング」だとの指摘に(それ自体を悪いとは言いませんが)耐えられる商品や活動など存在しないようにさえ思います。

 こうした不信や形骸化に立ち向かう力となったのは、「地元志向」「経年に耐える品質」「自分でも欲しいと思えるデザイン」という三つの基準に加えて、企画の趣旨に共鳴し、ともに取り組んでくださること自体に敬意と信頼を置ける方々と組むことでした。最後には、今回だからこそ作れる自分が欲しいものを、リスペクトする方々と形にしたい、という純粋な気持ちにすべて預けることにします。

 結果として生まれたのが、岡山・児島のジーンズブランド「ジョンブル」と、岡山県出身の現代美術家・橋爪悠也氏とともに、三者共創による特別なデニムグッズを販売するプロジェクトでした。売上純利益の全てを岡山県の児童福祉事業へ寄付するという企画です。

デニム素材で制作したトートバッグとスローケット
現代美術家の橋爪悠也氏が描き下ろしたイラストをのせた
トートバッグ

矛盾に線を引く

 今回の出店は、ファッションが持つ意味や倫理を自分たちなりに考え直す機会となりました。

 ファッション産業は、憧れや消費サイクルを喚起する構造と不可分な存在です。環境負荷の高い産業ともされ、様々な社会的な矛盾を抱えたまま前進を求められる立場にあります。ビジネスとして成り立たせながら、ソーシャルグッドを貫くのは並大抵のことではありません。

 実際、今回のように完全なチャリティーとして企画を成立させられたのは、私たちがファッションビジネスをなりわいとしておらず、単発的なイベント出店に限られたからに過ぎません。

 しかし、従来の成長モデルが揺らぎ、業界のシュリンクも懸念される今、供給する「かっこよさ」に後ろめたさがないことは、極めて重要になってくるように思います。

 私には完全な答えを提示することは当然できませんが、矛盾を矛盾として抱えながら、どこに線を引くのかを選び取ろうとする態度にこそ、ファッションの未来が宿るのではないでしょうか。

山本佑輔(やまもと・ゆうすけ) 04年に創刊した岡山県発のファッション・カルチャー誌『プラグマガジン』編集長。プラグナイトやオカヤマアワードといった地方発のイベントや企画もディレクションしている。24年度グッドデザイン賞で雑誌として史上初めての金賞(経済産業大臣賞)を受賞。通り名はYAMAMON(やまもん)。https://lit.link/yamamon


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