それぞれの英国スタイルを軽やかに
【ロンドン=若月美奈通信員】17年ロンドン・メンズコレクションでプレゼンテーションを行ったブランドでは、英国人デザイナーの英国へのこだわりをそれぞれの形で表現した新作が目を引いた。故郷や英国史の一場面、レトロな英国カルチャー。ベージュやエクリュ、ネイビーのベーシックカラーを基本に、ブリティッシュチェックやギンガムチェック、太めのモノトーンストライプが多用されている。アート風に変化をつけた迷彩柄もある。ショートコートにハーフパンツ、クロップトパンツといった軽いアイテムで構成されたスマートなカジュアルスタイルだ。
劇画タッチの柄とバナルなスコティッシュカジュアル/クリストファー・ケイン
「クリストファー・ケイン」は、今シーズンも少年っぽさを前面に出すことを拒まない。テーマは自身が育ったスコットランドの街、グラスゴーのストリートキッズとテレビの犯罪追跡番組「クライムウォッチ」。銃を持った強面の男性や標的など劇画風のキャッチーなプリントが目を引くオーバーサイズのTシャツにコンパクトなブルゾン、クロップ丈のパンツが基本だ。もっとも、そんなプリントに押されて目立たない存在となっている英国らしいチェックを多用したバナルなカジュアルスタイルのバランスの良さが光る。色違いのギンガムチェックをはぎ合わせたシャツにクロップのトラウザース。レトロな感じは自身の少年時代の思い出と思いきや、ケインが生まれた1982年より時代はさらにさかのぼる印象だ。今秋冬のレディスで人気を得た胸に大きなゴシック書体の「K」を乗せたセーターも、スウェットやコットンセーターで登場。
「エドワード・クラッチリー」の毒気のある東洋のエッセンスを加えたエキセントリックな英国スタイルにますます磨きがかかった。イタリアのコモで織ったジャカード、京都の絞り、故郷ヨークシャーの工場で特注したスーツ地など、それぞれの分野の優れた産地へのこだわりは、ラテックスのトップや小物、イブニングドレスのようなボリュームのパンツといったヤクザなデザインのコレクションに品位を添える。おどろおどろしい刺繍のモチーフは第二次世界大戦中に発見された歴史に残るガイコツやカッコウなど、ヨークシャーの原野に発想を求めた“伝統”的なるものだ。
「フィービー・イングリッシュ・マン」は初めてモデルを使ったプレゼンテーションを見せた。レディスに比べて気軽に着られる「製品」という視点でメンズを初めて3シーズン目。その基本を継続しながらも、よりモードな気分が強まった。コートのようにハーフパンツに重ねて着るシャツドレスやウエストから帯ひもが垂れるソフトなワイドパンツ、服の一部のように溶け込む同素材の斜めがけバッグ。シンプルでありながらもディテールやレイヤードのバランスにこだわり、そのまま女性モデルが着ればレディスにもなりそうな優しいメンズウエアが揃った。
「ハウス・オブ・ホランド」も3シーズン目のメンズ。といっても、立ち上げ当初からシーズンを特定せずに発表後すぐに店頭に並ぶ商品を出しており、今回の新作は17年春夏ではなく「シーズン3」。マーガリンやベイクドビーンズといったスーパーに並ぶ誰もが知っている食材ブランドのロゴをもじった大きなモチーフがTシャツやトレーナーの胸を飾り、パンツにも小さな同じモチーフが飛び柄のように散らされている。刺繍アーティスト、スコット・ラムゼイ・ケイルとのコラボレーションによる、グラフィティのような刺繍をしたデニムウエアもある。
「ナイジェル・ケーボン」のタイトルは「砂漠のネズミ」。第2次世界大戦下の北アフリカのトブルク戦線で活躍した連合国軍人たちの愛称だ。英国製のオーセンティックラインでは、シグネチャーのフードコートはフィッシュテールタイプに加え、サンドベージュをベースにしたグラフィカルな迷彩柄も揃う。合わせるパンツもグラフィカルなアーミーグリーンの迷彩柄。軍人をイメージしたコットンドリルのスーツは、1939年のデッドストック生地で作られている。ワークウエアライン「ライブロ」は、そうした砂漠軍人のイメージを継承しながらもネイビーブルーを加えてクリーンにまとめている。ブルゾンの背中やコートの内側にキャラクター風のネズミが大きくプリントされたアイテムもある。軍服やワークウエアをベースにしたこだわりの男服にそんなユーモラスな遊びが加わり、コレクションの奥行きを広げている。
(写真=フィービー・イングリッシュ・マン、ハウス・オブ・ホランド、ナイジェル・ケーボンはcatwalking.com)