セントラル・セントマーチン美術大学のファビオ・ピラス教授が「大学時代から明確なビジョンを持ち、大学院を卒業するまでにすでに自身のブランドの基盤を作り上げていた」と語り、近年の卒業生の中でもとりわけ優秀だったというのがクレイグ・グリーンだ。12年の卒業後すぐにデビューし、ここ数シーズンはJWアンダーソンに代わって、学生たちの作品に「クレイグ風」がたくさん登場するようになった。若者にもっとも影響力のある若手メンズデザイナーとなっている。
クレイグ・グリーンの「ワーキングユニフォーム」
徹底したトータルルックで攻める
学生時代から築きあげていたというその「明快なビジョン」、「ブランドの基盤」とは何か。服はもちろん頭から靴まで同じ柄や同じ色、同じ素材の徹底したトータルルックが特徴。直線カットを得意とし、時には服と同じペイントをのせた木のオブジェを担いだり、戦国武将の旗指物のような布をたなびかせたモデルが登場する。
「ユニフォーム。それが僕のコンセプトです」。答えは、この一言に詰まっている。「そのような発想でデザインしているので、基本的に同じ色、同じ柄のトータルコーディネートでまとめる。デザインする上でのアイデアも、常にワーキングユニフォームから得ています」
17年春夏の発想源は「ボーイスカウト」。40年前の木版を使ってハンドプリントしたキルティング地のジャケットや、フックの留め方次第で様々なボリュームのスリットが生まれるパンツはボックスシルエットで、ボーイスカウトルックとは程遠い。もっとも、色鮮やかなストライプのパネル地はボーイスカウトタイ、ざっくりとしたドローストリングのディテールはテント、四角いバッグは手旗信号からの発想と言われればすんなりと納得する。
描く世界は、陽か陰といえば絶対に陰である。そうした世界観と直線カットのシルエットからは、日本的な印象も強く受ける。「学生時代に日本語を専攻し、17歳の時に2週間、千葉県の市川高校に通ったこともある。無意識のうちにどこか日本的なものに目を向けているかもしれない」。
現在店頭に並ぶ16~17年秋冬のテーマは「英国人の目線で見た禅」だ。86年ロンドン生まれ。ダークな作風と、そこからは想像できない拍子抜けするほどに気さくな人柄。そのギャップから垣間見える不思議な余裕と可能性を秘めた笑顔に、現代ロンドンの若者像を見る。
(ロンドン=若月美奈通信員、ポートレート撮影=斎藤久美)