「今回はこんなルックブックを作ったの」
そう言って見せてくれたのは、16~17年秋冬のプレゼンテーションの一場面が表紙にプリントされた小冊子。ページをめくると、片面にモデルが直立したルック写真、対向ページにはそのモデルが着ている服や小物の物撮り写真が並んでいる。
デビュー10シーズン目を意識して、10人のモデルで10体の新作を見せた。といっても、レイヤードスタイルが基本のデザイナーとあって、アイテム数は想像以上に多い。どんな形の服をどのように重ね着しているのかわからないスタイルもある。そこで、その種明かしを見せる解体スタイルのルックブックを作ったというわけだ。
フィービー・イングリッシュの「コレクターズパーツ」
複雑なレイヤードで見せる
15年春夏には、ワンピースの上にワンピース、コートの上にコートを重ねるダブルフォルムで見せる独自のムードが印象的だった。モノトーンを中心に、ネイビーやナス紺、赤が加わるコレクションはいつでもほとんど無地使い。
シルクの布地をテープ状に割いてバスケット状に手で織った布地など、手の込んだテキスタイルも多く、若手デザイナーの商品としてはかなり高額である。ラテックス素材もシグネチャーの一つだが、毎回出しているのは人気があって売れるからだという。そのあたりからも、コアなファンが付いていることがわかる。
「小さなピース一つでも、気に入ったものを自分のコーディネートに取り入れてくれればうれしい」。まさに、コレクターズパーツである。
アーティストの家庭に生まれ、11年にセントラル・セントマーチン美術大学MAコース(修士課程)を卒業。12年春夏のデビューシーズンから、ロンドンのドーバーストリートマーケットが買い付けた。
16年春夏にはメンズもスタートし、レディスよりはるかに多い日本のバイヤーが買い付けている。17年春夏はレディス同様の新人支援プロジェクト「ニュージェン・メン」に選ばれ、ロンドン・メンズコレクションにデビューした。レディスとは異なり定番的なアイテムが多かったメンズも、それを機にぐっとデザイン性が増した。
春夏も秋冬も素材感にあまり差がない。秋冬なのに春夏のように軽いアイテムも多いことを指摘すると「6月に店頭に並ぶのだから、秋まで待たずに着られるものがいい」。
シーズンレスが言われる昨今、レイヤードを強みに、さらりと時代の波に乗っている。
(ロンドン=若月美奈通信員、ポートレート撮影=ジュリア・グラッシ)