次世代ロンドン、80年代生まれの才能7

2016/10/11 06:04 更新


 15~16年秋冬シーズンのロンドン・コレクションデビューは衝撃的だった。公式プレゼン会場には、イーゼルに向かってスケッチを行うティアードドレス姿のモデルに囲まれて、ヌードモデルのジョージが座っていた。パーティーの翌朝、ドレスでそのまま授業に出る画学生という設定。長年コレクション取材をしているが、素っ裸の中年男性の登場は初めて見た。


モリー・ゴダードの「ストリートドレス」
80年代生まれの才能⑦ Molly+Godard
モリー・ゴダードさん(ロンドンのドーバーストリートマーケットのコーナーで)

 


ドレッシーの概念を覆す

 「パーティーに着るようなドレッシーな服をTシャツと重ね着するなどして街着として楽しんでもらいたい」

 2シーズン目は夏休みにサンドイッチ工場でアルバイトをする女学生たち。やはり、工場での作業服とは思えないチュールやスモック刺繍のワンピースを着ている。

 そして3シーズン目となる16~17年秋冬は、グランドピアノが置かれたぐっとドレッシーな空間で意表をついた。コーデュロイやスポーツウェア用の防水素材でエレガントなティアードドレスを作るという、これまでのフォーマルライクな服のドレスダウンスタイルとは真逆の、カジュアル素材のドレスアップスタイルである。そのレトロな空間は鈴木清順監督の映画「東京流れ者」(66年)をイメージしたもの。

 「限られた予算で作ったこの映画が大反響を呼んだように、低予算でもクチュールのようなドレスアップができるというのがテーマです」

 設定や服の捉え方はそれぞれだが、たっぷりとギャザーを寄せたスカートが広がるウエスト切り替えのワンピースという基本アイテムは変わらない。毎回、絶妙な見せ方に惑わされているだけなのだろうか。

 そこで、「服のデザイン自体はそれほど変わっていないのでは」と水を向けると、「そうかしら、フルレングスのドレスを出したのは初めてよ」との答え。本人的には随分違うスタイルを出しているのだ。マンネリと強烈な個性は紙一重ということなのか。

 9月のロンドン・コレクションでは初めてショー形式で新作を発表する。そこで現時点での何らしかの答えが見えてくるかも知れない。

 ロンドンで生まれ育ち、セントラル・セントマーチン美術大学でニットを専攻。MAコース(修士課程)に進むが中退して15年春夏にオフスケジュールでデビュー。ロンドンとニューヨークのドーバーストリートマーケットや香港の ITが買い付けた。翌シーズンには「ニュージェン」に選ばれ、冒頭のロンドン・コレクションデビューとなる。

 今年3月に移転したドーバーストリートマーケットではコーナーを構えた。「快適な空間にしたかったので大きなオレンジのソファを置きました。パッチワークのラグはシーズンごとに気分の色に変える予定」

 今回の連載では他のデザイナーより2、3年デビューが遅い、一番若い新人。

(ロンドン=若月美奈通信員、撮影=斎藤久美)=おわり



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