シルク製電極を製造販売するエーアイシルク(仙台市)は、ウェアラブル製品の需要拡大に伴い、量産技術を確立し、供給体制を整えている。このほど、合繊でもシルクと同じ性能を持つ電極を開発した。合繊ならシルクより低コストで量産対応も可能だ。シルクも国内から海外へ調達先を変えてコストを抑えつつ、良質な電極を生産する。
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◆既存設備で生産可能
起業は15年。社長CEO(最高経営責任者)の岡野秀生氏は元々、大手光学・電子機器メーカーに勤め、ICレコーダーや医療機器の開発などに携わっていた。東日本大震災を機に、自分のノウハウを復興に生かせないか考え、会社を飛び出して仙台に移住。産学官金融が連携し、医療分野で復興を目指す取り組みの地域連携コーディネーターとして奔走した。東北大学が取り組む研究の中からシーズを探るうちに、導電性シルクを研究していた工学研究科の鳥光慶一教授に出会い、起業に至った。
鳥光教授の研究成果をベースにしたシルク製電極「エーアイシルク」は、衣服型ウェアラブル製品に適した素材として注目されている。シルクは肌に優しい着用感と、体の電気信号の計測時に障害となる水分を吸収する。シルクの特性を生かした加工で金属を使わずに導電性を付加でき、洗濯耐久性も備える。
シルクはフィブロインとセリシンというたんぱく質で構成される。シルクの光沢は、光を乱反射するフィブロインによるもの。天然のシルクはフィブロインの表面を覆うセリシンが光の透過を妨げるため、通常は精練でセリシンを取り除く。セリシンは導電性に優れた高分子のPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)と結合しやすい特性を持つため、セリシンをわずかに残してPEDOTと重合させ、導電性を持たせた。既存の設備を使えるため、大きな設備投資をせずに量産可能だ。仙台に保有する設備で、年間10万着分の電極を量産できる体制も整えた。
◆合繊にも応用
コア技術のユニークさが注目され、資金調達は順調だ。起業間もなく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が立ち上げたベンチャー企業支援プログラムの助成交付先として採択された。さらに、同プログラムの認定ベンチャーキャピタルとして参画していたドレイパーネクサスや、地銀系の投資ファンドからの出資、1月にはアシックスの投資子会社からの出資も決まり、研究開発・量産に向けた資金が集まってきた。
昨年にはNEDOによる企業間連携スタートアップに対する事業化支援(SCA)先として採択され、大手化学メーカーの協力を得て合繊を使った電極の量産技術を確立した。合繊の表面にセリシンを加工し、シルク製電極と同等の導電性を持たせた。繊維自体のコストはシルクの10分の1。量産は合繊の電極で対応する。海外ではシルク製電極への需要が高く、シルクの量産も続ける。調達先は国内からブラジルや東南アジアなど海外へ移す。
問い合わせは国内外に広がっている。次のステップは開発・供給体制を急ピッチで整えることで、商機を着実につかみ取らなければならない。人的リソースの確保が追いつかないのは課題だ。「先を見据え、素早く判断できるベンチャー気質のマネジメント人材が必要」という。
岡野社長CEOは「コア技術を用途に応じてアウトプットを変え、様々な分野のニーズにフィットさせたい」という。今後、ソフトウェアまで開発し、エーアイシルクで取得したデータを駆使して健康、医療、スポーツ分野を中心としたソリューションをワンストップで提供するサービスの開発にも着手する。
【繊研新聞本紙 2018年04月13日付から】