エルサルバドルという国名を聞いて、地図上の場所が思い浮かぶ人は相当な地理好きだろう。中米のグアテマラとホンジュラスに挟まれた、人口600万人の小さな国。面積は九州の半分ほどしかない。
首都サンサルバドルには、日本庭園や自然史博物館などを備えた敷地面積8万平方メートル近い広大な公園がある。市民の憩いの場として親しまれ、サブロー・ヒラオ公園という。東洋紡副社長で、ブラジル~エルサルバドルを訪問する出張の途中で急逝した平生三郎氏にちなむ。平生の死をいたみ、東洋紡の寄付で整備された。
平生は呉羽紡績(現東洋紡)に入社し、戦後、エルサルバドルへの繊維工場進出を成功させた。サンフランシスコ講和条約で国際社会に復帰した4年後のことで、当時のエルサルバドルには日本大使館さえなかったという。今よりもずっと情報やアクセスが乏しく、水先案内役もいない中米の小国への進出はどれほどの苦労があっただろうか。
その平生が開設に尽力したインダストリアス・ウニダスの事業休止が発表された。戦後、最も早く海外進出した日本企業の事例の一つだったが、時代の変化には勝てなかった。日本の産業構造も大きく変わり、当時と単純に比較することはできないが、少なくとも平生らのアニマルスピリットは日本の産業の競争力の源泉だったと言えるだろう。
