9月8日から13日までの6日間、ベルリン東部のオーバーシェーネヴァイデに位置する「MaHalla(マハラ)」で、グループエキシビジョン「UNRUHE」が開催された。ベルリンの現代アートシーンにおける最大規模のイベント「Berlin Art Week」の期間中に行われた本展は、映像作品の上映やダンスパフォーマンス、作品展示などが展開された。
会場となった「MaHalla」は、1895年に建設され、1990年代初頭に閉鎖された旧発電所を再利用した巨大な文化施設だ。長年に渡り放置され、廃墟のような状態になっていたところを映画監督でアーティストのRalf Schmerberg(ラルフ・シュメールベルク)が見出し、アート、音楽、映画、パフォーマンスなど、多様な文化が交差する場へと変貌させた。現在は約9,000平方メートルに及ぶ広大な空間に、メインホール、ブラックホール、フォーラム、スタジオ、ウィンターガーデン、地下の展示スペースなど70以上の部屋を擁する。
2022年の正式オープン以降、国内外のアーティストやクリエイターを迎え、展覧会やインスタレーション、コンサート、ダンスパフォーマンス、ファッションショー、ワークショップなど、多彩なプログラムを展開している。旧東ドイツ時代に発展した工業地帯の一角に位置し、むき出しの鉄筋コンクリートや巨大な工場建築のスケール感をそのまま残した空間は、ベルリンらしいインダストリアルな空気を色濃く感じさせ、現代のクリエイティブな芸術活動と共鳴し合う場として魅力を放っている。なお、「MaHalla」という名前は、アラビア語で「コミュニティセンター」を意味するという。

今回の「UNRUHE」は、政治や危機ををテーマにした展覧会ではなく、アーティストが常に抱えているUNRUHE=不安、動揺に焦点を当て、知覚と疑念の間、憧れと創造の間で絶えず揺れ動く「内なる圧力」をアートで表現している。ブラックホールでは、ラルフがインドを一人で216日間旅しながら撮影し、5年以上の歳月をかけて制作した108分の長編作品『Indarella』がプレミア上映された。インドでの偶然の出会いや文化、自然、精神性などを捉えた作品として注目を集めた。


身体やアイデンティティ、ジェンダー、移住などをテーマに作品を制作しているウクライナ出身のアーティストMariya Vasilyeva(マリヤ・ヴァシリエヴァ)は、本物の標本を使用した作品をウィンターガーデンにて発表した。他にも、伝説のバウンサーとして知られるFrank Küsterが手掛けるミッテの人気バー「Georgia Bar」が地下スペースに登場。忠実に再現された空間にはこだわりのサウンドシステム、オリジナルドリンク、連日異なるDJが出演するポップアップイベントが開催された。


他にも、Jonas Burgert、Martin Eder、Anna Borowyを含む60組以上のアーティストが参加した。本展のハイライトとして特に大きな注目を集めたのが、日本のクィア・パフォーマンス・コレクティブ東京QQQだ。ベルリン初の国際公演となる「IKIZAMA / IKIGAI」を披露し、身体、衣装、音楽、ビジュアル表現、空間を融合させたパフォーマンスで観客を圧倒させた。大歓声に包まれた東京QQQの公演の様子は、別の媒体で詳しくレポートする予定なので、是非そちらを読んで欲しい。
この日1日限りの限定でケータリング出店していた「TAKUMI NINE(匠ナイン)」にも注目したい。1杯10ユーロで提供された豚骨ラーメンには、こだわりのスープと、札幌の老舗製麺会社・西山製麺の麺を使用。ベルリンに3店舗を構える人気ラーメンブランドで、ヨーロッパを中心に50〜70店舗を展開している。また、音楽やアート、ファッションといったカルチャーとの親和性も高く、これまでにもさまざまなコラボレーションを展開してきた。すでに数多くのラーメン店がひしめくベルリンだが、「TAKUMI NINE」は単なるラーメン店にとどまらず、食を軸にカルチャーとも接点を持ちながら、常に新たな試みに挑戦し、ベルリンの街に根付いている存在と言えるだろう。

ベルリンのアートシーンは、国際的な注目度を高め、「Berlin Art Week」に参加するギャラリーやプロジェクトスペース、観客数など拡大を続けている。一方で、それを支える公的資金やアーティストの制作環境は厳しさを増している。その背景には、ベルリン州の財政難による大幅な文化予算の削減がある。2025年には文化予算が約1億3,300万ユーロ、12.5%以上削減され、2026/27年度についても、年間約9,000万〜1億4,000万ユーロの削減が見込まれているという。
「Berlin Art Week」においても基幹的な公的資金が打ち切られ、現在は経済・エネルギー・公営企業担当上院局からの拠出が残るのみとなった。運営母体である「Kulturprojekte Berlin」も文化事業の基盤そのものを揺るがす規模の削減に直面しており、現在は保有する準備金によって予算を補っているのが現状だ。もし、2028年以降、州から十分な資金提供を受けられなければ、現在の形で活動を継続することはできないという。
さらに、家賃や人件費、光熱費、アートフェアへの出展費、作品の輸送費、海外での活動にかかる費用など、文化活動を取り巻くコストも上昇している。こうした状況を受け、2024年9月にベルリンの文化施設や団体、アーティストらが連携して「BerlinIstKultur」を立ち上げた。デモやイベント、情報発信などを通じて、予算削減が文化シーンに及ぼす影響を訴える活動を行っている。
ベルリンのアートシーンがこのまま衰退してしまったら、この街の魅力が半減し、不要なジェントリフィケーションによる”便利だけど、つまらない街”に成り下がってしまう。音楽だけでなく、アートやファッションも守られるべき芸術であり、変わって欲しくないと心から願うばかりだ。

長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。
