セントマ生が見た27年春夏ロンドン・ファッションウィーク(若月美奈)

2026/10/15 06:00 更新NEW!


Photo: Caitlin Sullivan

ロンドン・ファッションウィーク最終日、公式会場での最後のショー「ライザ・キーン」終了後、セントラル・セントマーチンズ(通称「セントマ」)のファビオ・ピラスMAファッション主任教授と立ち話をした。「(バーバリーの)ダニエル・リーからデビューショーのライザまで公式スケジュールで37人、その他オフスケージュールで6人が私たちのコースの卒業生なんですよ」と彼。ジョナサン・アンダーソンを輩出したロンドン・カレッジ・オブ・ファッションや近頃注目のウエストミンスター大学の卒業生も活躍しているが、修士課程のMAだけでなく学士課程のBA卒業生も含め、相変わらずセントマパワーは衰えない。ファッションウィークには、デザイン学生だけでなくプロモーションやジャーナリズムなど様々なコースの在校生の姿も多い。ファッションジャーナリズム科2年生の大原空さんもその1人。学生生活や同級生のことも含め、若手ブランドを中心に見た今シーズンの体験を記してもらった。

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残暑が続く日本からロンドンに戻ってすぐに始まった今シーズンのファッションウィーク。ロンドンの街路樹の秋色に追いつこうとしているのに、発表されるのはさらに進んだ来年の春夏コレクションです。私にとってはまだ2回目のファッションウイーク。ドキドキしながら最初のショー、「アグロ・スタジオ」へ向かいました。

会場に入る列に並んでいると、セントマの友人に遭遇しました。「来るって知らなかった!」と私が声をかけると、「もちろん!だってスタイリストだもん!」と彼。オールブラックの着こなしがばっちり決まった彼は、1年生の頃から様々な雑誌でスタイリングアシスタントとして経験を積み、今ではメインスタイリストとしてエディトリアルを手がけています。彼とハグを交わすと、少し緊張していた私も知っている顔に安心。ワクワクしながら会場の中へ。

アグロ・スタジオは、ジョージ・オクスビー(George Oxby)とアンガス・コクラム(Angus Cockram)が立ち上げたブランドです。2人は、ロンドンの若者にはおなじみのマッチングアプリ「ヒンジ」で出会ったカップル。吹き抜け状に深く伸びるコンクリートの空間で、三層に分かれた観客が円形の舞台を見下ろすなか、ショーが幕を開けました。

エアリーでありながらどこか孤独感があり、シルエットはあっさりとシャープ。私が特に惹かれたのはカラーパレットです。寒色を基準とした配色をコントラストではなくグラデーションでスタイリング。それが心地よく、今シーズン1番印象に残りました。

AGRO STUDIO, Photo: Sola Ohara

なぜこんなに惹かれたのか。それを考えたくて、デザイナー2人のインタビューを読みました。今回は「ソフトクラブ」のような、都会のメランコリーを込めたショーにしたそうです。ソフトクラブとは、90年代後半に流行した世界観に対して最近SNS上で付けられた名称で、きらびやかでサイバーなY2Kと同じく、未来的でありながら、もっと静かな空気をまとった美学です。曇りガラス越しにゆっくり動く光、空港や地下鉄といった「移動途中」の空間のようなメロウな世界がキービジュアル。

テクノロジーが急速に発達する中で、未来への期待と不安の「間」を、色と光で表現する。今、AIが目にも止まらぬスピードで発達し、未来がどこへ向かうのか見えない不安に繋がるものがあります。私も不安になることがあるし、だからこそこの世界観にどこか落ち着くものを感じたのかもしれません。

2月のファッションウイークでは、ジャーナリズム科の課題でショーの記事を書きました。書いたものを発表する場で好評だったのは、バイオリンの生演奏とともにモデルがゆっくりと歩いた「フィービー・イングリッシュ」や、香港の夜市を再現した会場にモデルが物語の登場人物のように現れた「チェット・ロー」。観客が「浸れる」という点で共通していました。SNS投稿のための様々な取り組みなど、ファッション業界のビジネスの部分が浮き彫りになる「ファッションウイークのせわしなさ」ではない所です。そのせわしなさは「ワクワク」ではなく「これは何のためなのか」という疑問に繋がっていました。

未来が予測できず、環境も人権も、当たり前だったものが次々と壊れていく今、ファッション業界はこの破壊に加担しています。「Climate Anxiety (気候変動への不安)」という言葉があるように、課題の深刻さへのストレス自体が問題になっている私達の世代。自分の手では何も変えられないのではないかと途方に暮れています。どれだけファッションが好きでセントマにやってきても、「今これをやっていていいのかな」とわからなくなる瞬間がある。服があふれている世界で、新しい服を作るとはどういう事か、これを議題にディスカッションすることもあります。

PAULINE DUJANCOURT, Photo: Caitlin Sullivan

そんな疑問を抱えながら見たショーの中で、若いデザイナーたちはそれぞれのやり方で、この時代の気分に応えているように感じました。

「ポーリン・デュジャンクール」の今回のテーマは「悲しみ」と「涙」。そのテーマと、彼女のクラフトマンシップから生まれる丁寧ではかない柔らかさ。その「間」がつくる緊張感が少し現実から離れた世界を表現していました。

同じく公式会場で発表した「ユーハン・ワン」のモデル達は夢遊病を思わせ、テーマは「夢と現実の狭間」。不透明な気持ちの中に自分なりの安定を探している。そんな今の若者の心情が表れているように思えました。

YUHAN WANG, Photo: Chris Yates

同じジャーナリズム科の友達、ヤズミンにユーハン・ワンをどう思うか聞いてみると、面白い答えが返ってきました。「このショーみたいなガーリーさは、西アフリカで育った私には全然ピンとこないんだよね。私の育った文化では、ピンクよりもパキッとした赤や黄色の組み合わせがフェミニンだし、女性らしさはリボンやレースよりもテーラードの服にある」。 西アフリカからポルトガル、そしてイギリスへと移り住み、4か国語を話す彼女。そんな背景を持つ学生が珍しくないのがセントマの良さであり、自分の見方は一つの視点にすぎないのだと気づかされます。

公式会場の最後のショーを飾った「ライザ・キーン」が見せたのはここまで書いたデザイナー達とは違う、今の世界に対しての答えでした。暗闇のショー会場に現れた6人が担ぐ光る板の真上から水が降ってくる。その下を、モデルたちが歩いていく。これまでのコレクションと比べ世界観のロマンチックさが薄れたそうです。モデル達が演じるのは、何らかの大惨事を生き延びた人々。不安の中に静けさを探すのではなく、現実から逃げずに、自分らしさを守り抜こうとする姿を表したのだそうです。

Liza Keane, Photo: Chris Yates

ジャーナリズム科の友達、ロッティー は、ライザ・キーンのもとでインターンをしていました。「ファッション業界で他のインターンをして、すごく使われているなと思ったこともあったけど、ライザはインターンをして私がこの経験から何かを得られたなと思えるように、始める前に話し合う機会を設けてくれた」そうです。セントマ生の間で常に話題のインターンシップ探し。ライザ・キーンのように作品だけでなく、一緒に働く人の成長も大切にする。この価値観が循環すると素敵だなと思います。

スーザン・ファンのショーの終わり、モデル達がポーズしているとショー会場の向かいにある学校の窓から見ていた小学生の女の子達がモデル達に手を振り出しました。モデル達が振り返すと、「キャー!!」と大きな歓声。「この瞬間にファッションが夢になった子がたくさんいそう。」と友達とニヤリ。SUSAN FANG, Photo: Sola Ohara

舞台裏の話を聞くとロンドン・ファッションウィークの面白さは、完成したコレクションだけではないのだと感じます。若いデザイナーが過半数だからこそ、彼らが自分の表現を見つけ、迷い、成長していくストーリーがこの場所にある。それが一番の魅力なのかもしれません。

スマホ一つで答えに辿り着ける今。ネット上ではないところにインスピレーションを探しにいく、自分を取り巻く世界を自分なりに解釈し、時間をかけて考え、手を動かして何かを作る。一見当たり前のこのプロセスは、今の時代、意識して行わないと出来なくなっています。その過程自体が人にとって大事な営みであり、ファッションやクリエイティブな仕事は、それを守り抜ける場所でもあると思います。AIの時代に、人はクリエイティブな実践をどう使っていくのか。その答えのかけらを間近で見られるのが、ロンドン・ファッションウィークなのではないのかなと思いました。

Sola with Lottie(left)& Yasmin(right)

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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は30ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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