フレディ・マーキュリーの遺品1500点を一挙公開 競売へ(若月美奈)

2023/08/15 06:00 更新


ロックバンド、クイーンのボーカリストだったフレディ・マーキュリーの遺品がオークションにかけられる。それに伴い、ロンドン・ボンドストリートにあるオークションハウス、サザビーズでは大掛かりな展覧会が開催されている。

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ガーデン・ロッジと呼ばれるケンジントンにあるフレディの邸宅とそこにある品々は、1991年に彼が他界したとき、生涯の親友メアリー・オースティンが相続した。彼女は家族とともに現在もそこに住み、フレディの遺品をそのままの状態で保管していたのだが、身辺整理を理由に全てを手放すことにしたのだ。衣装や私服、家具、生活雑貨などはもちろん、美術品のコレクターとしても知られるフレディが集めた絵画や陶磁器など、錚々たる品々は1500点に及ぶ。

オークションのタイトルは「フレディ・マーキュリー : A World of His Own」。

展覧会といってもあくまでオークションの下見が目的で入場は無料。予約なしに誰もが見られる。ほとんどが彼の死後未公開だったのもので、その貴重な品々を見ようとたくさんの人々が駆けつけている。

建物には「Sotheby’s」の旗にかわって「FREDDIE MERCURY」の旗が掲げられ、入り口の上には髭が付いている。8月4日から9月5日までの1ヶ月にわたる展覧会の開催は、1744年設立のサザビーズ史上最長らしい。9月5日はフレディの77歳の誕生日。ライブオークションは翌日6日から3日間に分けて開催される。別途オンラインオークションは「In Love with Japan」、「Crazy Little Things」パート1、パート2の3つに分かれ、それぞれ9月11日、12日、13日まで開催中。

それでは14室からなる展覧会の内部をご紹介。

GARDEN LODGEと書かれた扉を抜けて最初の部屋に入ると、そこは日本、日本、日本。ロックミュージックとは別世界の日本美術のコレクションに圧倒される。壁には喜多川歌麿や歌川広重などの浮世絵がずらりと並び、フレディが日本を訪れた時の写真とその時に着ていた服の展示が来場者を迎える。漆器や陶磁器、中央には打掛も飾られている。この打掛の予想落札価格は1200〜1800ポンド(約20〜30万円)。そんな博物館のような空間の奥の棚には小学館の「原色日本の美術」シリーズが並ぶ。フレディが一気に身近に感じるこんな書籍も皆、オークションにかけられる。

次のTHE JAPANESE ROOMの中央には、日本というよりも中国を思わせる装飾が施されたグランドピアノや蓄音機がある。その美しさに思わずうっとりするや否や、黒塗りのキャビネットに入った蓄音機の予想落札価格を見て思わず目を疑ってしまった。ピアノよりも二桁安い400〜600ポンド。1930年代のものらしいが、日本円にして10万円程度なんて安すぎる! この部屋にも浮世絵や瀟洒な家具が並ぶ。

映画「ボヘミアン・ラプソディ」では、部屋着として着物を羽織ったシーンがあるものの、フレディと日本の関係はほとんど紹介されていない。この想像を超える数の日本の美術品が並ぶ最初の2つの部屋を見れば、彼がいかに日本を愛し、日本の文化・芸術に造詣が深かったかがわかる。

そしてAT HOMEという部屋に移ると一気に西洋の世界が繰り広げられている。重厚な絵画や豪華な調度品、ソファーが並ぶリビングルームに、陶磁器がぎっしりと詰まったキッチンの食器棚。ガラスケースの中には漆器の手鏡や銀のトレーなどと一緒に赤いダイヤル式の電話機が置かれ、日常を感じて嬉しい気分になる。

友人を招待してのパーティーやディナーが大好きだったフレディの家らしい、大きなダイニングテーブルやガーデンチェアが置かれた部屋を通り、CRAZY LITTLE THINGSの部屋へ。手紙や雑誌、写真のようなものから、使い込んだスーツケースの数々、洋服から日本人形、縄跳びまで、ありとあらゆる小物が並ぶ。75年の初来日から80年代初頭にかけて発売された「ミュージック・ライフ」誌からは、日本から送られてきた掲載誌を大切に保管していたフレディの人柄が伝わってくる。

そしていよいよキーピースの1つである赤いベルベットのケープと冠が展示された部屋へ。1986年に行われた最後のライブのフィナーレで着ていたこのケープと冠はセットで予想落札価格60,000〜80,000ポンド(約1000万〜1500万円)。壁にはさまざまな国のレコード会社で賞を取るたびに贈られたゴールドディスクがぎっしりと並んでいる。

赤い階段を通って2階に行くと、最初はガーデン・ロッジのドア。ファンによる寄せ書きが幾重にも上書きされた出品番号1番のこのドアは予想落札価格15,000〜25,000ポンド(約270万〜450万円)。こんなものまで売り出してしまうなんて、ガーデン・ロッジも手放してしまうのでは。現地の報道によると、やはり売り出されるという噂が流れているそうだ。

続いて手書きの歌詞のコーナーへ。「ボヘミアン・ラプソディ」や「ドント・ストップ・ミー・ナウ」などクイーンの代表曲の歌詞が並ぶ。ブリティッシュ・ミッドランド航空の紙に書かれたものが多い。「ボヘミアン・ラプソディ」もその1つで、ごちゃごちゃっとした中に「Nothing Really Matters to Me」の文字が読み取れる。映像に登場する4人のポートレイトのベタ焼きもある。

本棚の中に「SHOGUN」の文字を見つけたリビングルームの再現コーナー、ジュエリーなどのPRECIOUS LITTLE THINGSを経て、絵画のコレクションへ。ミロやシャガール、ピカソ、マティスなどの作品が揃う。キーピースの1つ、歌川広重の「新大橋と安宅のにわか雨」もこの部屋にある。

そしていよいよメインギャラリーに展示されたステージ衣装が登場する。1973年にBBC放送の「トップ・オブ・ザ・ポップ」に初登場した時以来、何度も着用しているお気に入りのファージャケットなど、見覚えのある服がフレディの顔をしたマネキンに着せられている。おへそまでフロントがくり抜かれたあのキャットスーツもたくさんある。

この部屋の天井にはずらりと着物が吊るされている。正面にはその1着を羽織ってマイクを持つフレディの写真。今回のオークションでは50枚の長着のほか、帯や帯揚げ、草履なども出品されている。

奥の小部屋には衣装や私服がぎっしりと詰まっている。まるで古着屋のようなリアルな空間には、胸が詰まる思いがする。服がいかに人々の人生に寄り添っているものかを改めて思い起こされた瞬間だ。スニーカーはアディダスが多いフレディだが、この部屋の中央でオニツカタイガーを発見。

いよいよ最後は予想落札価格が最高額の200万〜300万ポンド(3億6000万〜5億4000万円)というヤマハのグランドピアノ。フレディが作曲に使っていたものだ。ボヘミアン・ラプソディが流れる部屋には、そのプロモーションビデオでフレディが着ている「マーキュリー・ウイング」と呼ばれる白いキャットスーツとボレロのアンサンブルもある。こちらの予想落札価格は50,000〜70,000ポンド(約900万〜1260万円)。

この展覧会を見た人々は同じことを口にする。「これはばらばらにしちゃいけない。博物館にまとめて展示するとか、ガーデン・ロッジを記念館して保存するべき」と。確かに会場を出た瞬間はそういう気持ちでいっぱいになる。

しかし、次第にこの結末は正しいのかもしれないという思いが強まってくる。オークションが大好きでサザビーズの常連だったというフレディの遺品だからこそ、サザビーズで一同に集めてたくさんの人々に披露し、空中分解するかの如く世界中に散らばる。それが、フレディのことを知り尽くしたメアリーの選択なのだから、彼は満足しているのだと思う。

この1500点は散らばってなくなってしまうのではなく、多くのファンがフレディの人生の一片を共有し、世界各地でいつまでも受け継がれていく。

収益の一部はマーキュリー・フェニックス財団とエルトン・ジョン・エイズ財団に寄付されるそうだ。オークションの出品内容はこちらで。

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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は30ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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