【ロンドン=小笠原拓郎、若月美奈通信員】17年春夏ロンドン・コレクションには手作り感がクローズアップされている。といっても職人技といったものではなく、裁縫のような素朴なイメージ。パンクにも通じるDIY(日曜大工用品)的な物作りだ。それをデザイナーブランドならではのスペシャルなデザインに落とし込む。スタイル画やドレーピングからスタートするのではなく、身近なワードローブから発想を広げていく手法も今の気分だ。
アナログな手仕事とワードローブからの発想
クリストファー・ケインは前シーズンに続きリサイクルを念頭に置いたコレクションを見せた。スタート地点は第2次世界大戦下の物資不足の英国で手持ちの服などを手直しすることを推進した標語「メーク・ドゥ・アンド・メンド」。それは、糸くずを無造作に飾ったチュールドレスや古着風の毛皮のコートから、ショーのバックステージに貼られたモデルのポラロイド写真をコラージュしたプリント柄のコートやスリットスカートとなる。さらに、そのはぎれはワンピースにハトメで留め付けられ、ひらひらとなびく。過去の作品もリサイクルの材料となり、セントマーチン美術大学の卒業コレクションで見せたメタルリングを使ってレース状にひもを渡して成形するボディコンドレスをはじめ、オプティカルな花のモチーフドレス、花刺繍でトリミングしたブラックレザーのスカートなど見覚えのあるテクニックが再現された。加えて、子供の頃近所にあったカトリック教会をイメージした宗教画のプリントもある。あちらこちらに散りばめられた宝石は原石のままでリサイクルな気分にぴったりだ。10周年ということで過去を振り返ったコレクションだが、大胆な再生や粗さの残る手仕事、未完のムードをラグジュアリーな一着に落とし込み、確実に前進していることを印象付ける。
マルケス・アルメイダのキャッチーなストリートスタイルがさえている。マットな花柄にストライプ、マーブルプリント、そこにメタリックの光沢とレースを重ね、独特のストリート感を出していく。シャツは、ショルダーに細かく入れたギャザーで袖にボリュームを作るか、ずるずるとしたビッグフォルムでシャツドレスのように着こなす。アイコンともいえるカットオフデニムはデコルテを強調したドレスや部分的にフレアラインを盛り込んだセットアップに。レースを重ねたドレスもテープやフックの装飾を取り入れて、甘い雰囲気とは一線を画す。パンツラインはフレアを短くカットしたものやギャザーでサイドにラッフルのようなドレープをとったもの。フェザー飾りのブラウスもラグジュアリーな空気感ではなく、どこかスカした気分が漂う。いい意味でチープな感じがいっぱいで、それがキャッチーな抜け感と重なってパワフルに見えてくる。価格もそれほど高くないとなると、今のハイファッションと市場との距離感を埋めるような、新しい市場性を持ちうる。
シーナウ・バイナウ本格稼働 趣向を凝らし新作発表
バーバリーは「2016年セプテンバーコレクション」として、ショーの後、すぐに買える形式のコレクションを見せた。6月にメンズを見せなかったこともあり、レディス、メンズを合わせた83ルックという膨大なサンプル数。しかも、すぐに売ることを意識してコマーシャルなものになるのかと思いきや、コンセプチュアルで大胆なラインが揃った。バーバリーの伝統ともいえるメタルボタンのミリタリーコートやブランデンブルグ装飾のドレス、タッセル飾りの重厚なケープといったアイテムに、繊細なエリザベスカラーやフリル飾りのシャツがコントラストとなる。パジャマスーツにニットをかぶせ、プリントショートパンツにはレーススカートを重ねるなど、レイヤードも特徴の一つ。チューダー朝と現代のミックスなど、異なる要素を組み合わせていくのも今シーズンの背景にあるからだ。コレクションの出発点となったのは、「永く、さまざまな人の生活様式や文化、服装を見てきた家」。そこからヴァージニア・ウルフの小説「オーランド」や英国のインテリア、ガーデニングデザイナーのナンシー・ランカスターの作品を探り、イメージを広げたという。ランカスターイエローと呼ばれる淡いイエローや古い壁紙モチーフのプリント柄などに取り入れられている。
旗艦店には限られた顧客を招き、ショーの映像をオンタイムで上映した。ショーが終わると店内のカーテンが開き、クローゼットに並べられた新作がすぐに手にとって買うことができる。しかも、バーバリーとしては、ただ商品を販売するだけではなく、物作りの背景にあるコンセプトまでを顧客に伝えていく狙いがある。会場にはコンセプトマップも用意され、クリストファー・ベイリーのイマジネーションを体感してもらえるように準備した。ただの販促イベントのショーにはしたくない。顧客とブランドがショーと物作りを通じてより結びつく機会にしていこうという思いを感じることができる。
トップショップ・ユニークも現行シーズンのショーを見せた。80年代のクラブシーンに目を向け、太ももまでの大胆なスリットを入れたロングスカートやブラジャーが透けるブラウスといったセクシーなアリテム、悪趣味ギリギリのゼブラ柄やフューシャピンクがメイン。夜遊び風のテーラードジャケットもある。ショーが終わって裏手に出ると、その場で買えるポップアップショップが設置されていた。ここは今回の観客のみの販売だが、大半の新作はオンラインや世界の直営店で即時発売し、一部ドレッシーなアイテムはクリスマス対応で11月に店頭に並ぶ。このショーに加えてスポンサードする若手のショーが行われた今シーズンのトップショップ会場は、東ロンドンのスピタルフィールズマーケット内に設置。ショー会場の周りには、ファッション小物ブランドなどを中心に2日間限定のストールがずらりと並び、既存のビンテージやストリートフードのストールと相まって多くの客が集まった。
メーカーであるバーバリーが物作りの行程を見せたのに対し、小売りチェーンのトップショップはファッション小売りの原点であるマーケットに焦点を当てた。「See now, buy now(シーナウ・バイナウ)」の内実は様々だが、これを土台にどのように発展していくのか注目される。(写真=catwalking.com)