「ヴェットモン」をデザイン、バレンシアガの新アーティスティック・ディレクター、デムナ・ヴァザリアさん
16年春夏コレクションで最も輝いたショーとして「ヴェットモン」を挙げる人は少なくない。自由なエネルギーにあふれるコレクションを見せたデザイナーのデムナ・ヴァザリアは、その数日後、「バレンシアガ」のアーティスティック・ディレクターに就任した。そのクリエーションへの思いを聞いた。
ファッションは楽しいんだって感じて欲しかった
ファッションは楽しいんだって感じてもらえるショーにしたかった。3Dで立体的に見えるようにデザインしていて、彫刻を作るように作っています。プロポーション、形、ボリュームを3Dにした時にどう見えるのかを考えて作りました。ボリュームのあるシルエットは、ヴェットモンの女性像のアティチュードを作るためです。
ヴェットモンの目指すフェミニンは普通の女性らしさとは違うもの。花柄を使ってもスタンダードな女性らしさとは違うように見える。もう、ジェンダーで女性らしいとか男性らしいとかいうような時代ではない。自分の意見があって、強い自分を持っている人。それがヴェットモンの女性像。「今までの女性像にとらわれない」という女性像です。
ヴェットモンのビジネスは、自分と弟の二人だけが出資してやっています。他の資本は一切入っていない。出資したいという話もありましたが、自分の自由を制限したくないので、出資を断りました。大きなファッションシステムに入ると、そこに巻き込まれて好きなものが作れなくなる。そこは独立性を保ちたいと思って、自分たちだけでやっています。
大きなファッションマシーンを怖がっていたら
バレンシアガはやらなかった
バレンシアガを手がけるのも興味深いことです。大きなファッションマシーンを怖がっていたら、多分やらなかっただろうと思います。そこに入っても自分自身でいられるだろうと思ったから、やってみようと思いました。(フランソワ・アンリ)ピノーさんが大きなメゾンで私に声をかけてくるということ自体、バレンシアガ自身が変わっていきたいということだと思います。それを感じたのでやってみたいと思いました。
とはいえ、ビッグハウスとインディペンデントのビジネスは違う方向で進んでいることです。そこをきちんと頭で考えてアウトプットしていかないといけない。それをできると思ったのでオファーを受けましたし、それが私のやりたいことなのだと思います。
「ルイ・ヴィトン」や「マルタン・マルジェラ」で仕事をしてきましたが、周りの人たちや友人に着てもらいたい服を作ろうという思いで、ヴェットモンを始めました。楽しんで着てくれる服を作りたい。そんな気持ちで始めたのが2年前。ショーで、ファッションって楽しいものだったんだと感じてくれたのだとしたら、それがまさに私が言いたかったことです。
◇ ◇
ベッドルームほどのスペースで展示会を始めたコレクションは、瞬く間に注目の的となった。言葉数は多くはないが、話しぶりに強い信念が感じられる。様々なブランドを経てファッション市場の閉塞感も承知の上で、ファッションの楽しさを主張する。自由なクリエーションの大切さを思い出させてくれる、時代のキーマンとなりそうだ。(繊研 2015/10/14 日付 19335 号 1 面掲載)
(聞き手=小笠原拓郎編集委員)
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