22年春夏パリ・メンズコレクション フィジカルで質感、デジタルでコンセプトを見せる

2021/06/25 06:30 更新


 22年春夏パリ・メンズコレクションはデジタル配信を軸としながら、フィジカルのショーが一部予定されている。初日は若手デザイナー中心のスケジュール。その中で「ターク」や「キディル」が東京でフィジカルなショーやプレゼンテーションをしながら、それとは違う映像を公開した。

(小笠原拓郎)

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 都内でフィジカルなショーをしたタークは、物作りの背景にあるコンセプトのナレーションとともに服のディテールを映像で見せた。モデルたちがフィッティングするバックステージまで公開しながら、春夏のテーマの地球や自然の美しさと服を重ね合わせた。生地の途中で素材の構成を変えることで、ジャケット地がシャツ地になっていくといったアイデアは春夏から継続するもの。そこに今回は美しい色の幻想的な柄を組み合わせる。サテンタッチのジャケットはグラデーションのように色が変わり、ジャケットは透け感と刺繍で夜空を描く。生地から作ることで、今までにないアイテムを生み出すのが森川拓野のコンセプト。ただ、前回はそれがプロダクトに対するアイデアにとどまっていた。今回は、プロダクトとしての服の先にある詩的な美しさにたどり着こうとしている。ファッションデザイナーはプロダクトを作るだけではなく、そのプロダクトがはらむ美しさの意味を提示するのが仕事だとすれば、森川はそこにアプローチしようとしているのかもしれない。問題はフィジカルなショーならば服の質感が分かるのだが、このデジタル映像では伝わりづらいこと。デジタルでもショーの映像を配信しても良かったようにも思える。

ターク
ターク

 キディルは、イサム・ノグチの石庭のある空間でのフィジカルのプレゼンテーションとともに、同じ会場で撮影した異なる映像を配信した。春夏はグラフィカルなプリントがいっぱい。英国人グラフィックアーティストのトレヴァー・ブラウンのアートワークによるもの。その〝カワイイ怖い〟のグラフィックが、ネオンカラーのアイラインやカラーコンタクトのヘアメイクと重なり合う。ラテックスのガーターストッキングや縄で縛ったトップで、どこか不穏でフェティッシュな雰囲気をプラスする。唇のマルチプリントは、ところどころで舌が洗濯ばさみで挟まれた痛いプリント。シャツやパンツに重ねたリボンの刺繍は、キュートというよりも毒気を秘めた装飾に感じられる。テーマは「純粋性」。末安弘明らしい痛々しいまでの繊細さやなまめかしさ、秘めた強さを感じさせるコレクションだ。パンクのアイコンに頼らずパンクの精神性を模索しているが、秋冬はレディスのルックに、よりそれを感じることができた。それはレディスのルックの方が自由に表現できているから。花柄とデニムが切り替わったタイパンツのようなアイテムなど、パンクの様式とは異なる表現であるがゆえ精神性が際立つ。

 一方で、メンズはボンテージパンツなどのパンクの象徴的なコードが目立ち過ぎてしまう。プロダクトデザインとしてパンクのコードを使うこととパンクの精神性を描くことの矛盾もあるし、ビジネス上での折り合いもあるだろう。しかし、そこにもう一歩踏み込んだ先に、今の時代のパンクの精神性を持ったキディルらしいアイテムが生まれてくるように思う。キディルのレディスの顧客のスタイルや、今回のレディスのルックからそんな可能性を感じている。

キディル
キディル
キディル


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