【アフターコロナを見据えて】専門店経営㊤ 客との接点、満足をとらえ直す

2020/07/24 06:30 更新


 全国のファッション専門店が営業を再開した。コロナ禍では服の需要が急落し、企業規模の大小問わず「生存」に必死だったが、これからは「変わるべきこと」「不変であるべきこと」を見つめ直し、事業の最適化を進める必要がある。多くの店が見通しているのは「消費者は今後、服をより厳しく選ぶ」という点。それに対応した「店舗運営」「顧客とのつながり」「作り手・売り手・消費者の三方良しの関係」まで課題は浮き彫りになった。

■強みと弱み

 新型コロナウイルス感染の拡大が専門店経営に与えた経験をまとめると、大きく5点になるだろう。「有事には服購買が3~7割も落ち込む」「デジタルに弱かった客までがSNS・EC活用へシフトした」「顧客との接点の重要性」「実店舗のムダの削減と在宅でも可能なことの多さ」「求められる商品への再検討」だ。

 3月から約2カ月間、服の需要の落ち込みは衝撃だった。安心・安全・平和がファッション消費や経済活動にいかに必要かを痛感した。ようやく街に人出が戻っているが、店に入ることがまだためらわれるなか、安心・安全に配慮して販促イベントなどを行い、萎縮した購買意欲を喚起することも求められる。

 デジタルシフトへの対応は、各店での売り上げに差をもたらした。地域密着店でも客数が大幅減少したが、SNSを見て顧客が支援のため来店したり、EC購買に移行したりと売り上げを支えた。「顧客との接点、つながりの深さ」が改めて問われた。これまで対面重視を表明していた店も「SNSやECサイトを整備し、店舗を補う」方向に転換した。変革への柔軟さは勝ち残りの必須条件だ。

 新型コロナの影響が表れ始めた初期段階で、多くの店舗が営業日・時間短縮、スタッフ勤務シフトの大幅変更を進めた。その結果、「店の強みと弱み」「ムダな営業時間」「最適な立地環境」「スタッフの働き方改革の必要性」が認識されることになった。

 5月下旬に本紙が行った中小専門店アンケートでは、「店舗ごとの立地やスタッフの強弱が判明」「在宅で接客販売が可能なことが分かった。ムダに営業していた」と答える専門店が多かった。立地や営業時間の再考、特に密を避けながら営業を続けられる路面店への回帰も検討されている。

 永続的な課題として「商品仕入れの見直し」は最重要事項になった。具体的には、「生産背景やストーリーが伝わり、購買の決め手になる」ブランドの選定であり、惰性で仕入れていた取引先の絞り込みなどになる。顧客との接点・つながりをより強固にする必要があるからだ。

■生産者と協調

 昨今くすぶっていた「メーカーとの協調のずれ」「生産側と販売業者とのコミュニケーション不足」が、あらわになったのも事実。例えば、この3カ月、専門店は何とか売り上げを作りたかったのに対し、取引メーカーやブランドから一切連絡がなかったという店が多数存在する。服が売れにくい時代であり、双方の要望を深く交換し合う時期に来ている。

 先行きは厳しいという意見が多い半面、国内の消費者のファッション観に対し明るい意見もある。静岡市街の路面店ナーレンシフの大西祐介代表は、「多彩な色柄の布マスクの広がりは、おしゃれで〝心を癒やされたい〟証し」と話す。おしゃれをする人が減ったのではなく、ファッションを供給する側が客の心を満たせるかが重要になっている。「売り上げを失ったが得ることも多かった」という言葉通り、ファッションビジネス全体が未曽有の体験から学び、ファッション小売りの最適化に動き出す時を迎えた。

(繊研新聞本紙20年6月24日付)

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