雑誌『モーニング』(講談社)で連載中の漫画『アパレルドッグ』が話題だ。アパレルメーカーの実態をリアルに描く〝お仕事もの〟のストーリーが、業界人だけでなく多くのビジネスマンの共感を呼んでいる。作者の林田もずるさんは、元デザイナーで業界キャリア約30年のベテラン。自身の経験を生かし、ファッションの仕事の魅力を伝えたいという。
(高塩夏彦)
専門学校卒業後、大手アパレルメーカーに入社し、レディスをメインにメンズやキッズなど幅広いデザインに携わってきた林田さん。仕事用に液晶タブレットを手に入れたのをきっかけに、中学生時代の趣味だった漫画の執筆を再開したところのめり込み、賞への応募や出版社への持ち込みを始めた。複数の受賞を経て、24年7月にアパレルドッグの連載が始まった。現在は会社を退職し、専業漫画家として活動している。
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様々な職種の魅力伝える
同作の主人公、田中ソラトは入社8年目の29歳で、レディスブランドのマーチャンダイザー(MD職)。急遽(きゅうきょ)メンズラインの立ち上げを命じられ、社内外の人の力を借りながら奔走することとなる。
これまで、ファッション業界を描いた漫画やドラマは、デザイナーやモデルなど、業界外でも知名度が高い職種を描くものが多かった。MDに焦点を当てるのは異色といえるが、林田さんは「モーニングの主な読者層はビジネスマン。ならば、数字を追って分析を繰り返すMD職は共感を得られるはず」と考えた。
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作中には生地の「ジャージー」を体操着と勘違いする新人や、協力企業とのトラブルをベテラン生産管理に解決してもらうエピソードなど業界の〝あるある〟が多数登場する。「できるだけ詳しく業界を描き、多くの職種の魅力を知ってほしい」思いの表れだ。
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ファッション業界に恩返し
もちろん、ファッション業界で働く人だけに向けた作品ではない。仕事を通して得られる成功体験、挫折からの立ち直りをドラマチックに描き、誰もが共感できるストーリーに仕上げている。ファッションビジネス経験者ゆえに、つい専門用語が頻出してしまう課題もあるが、担当編集者の意見などをもとに、図を使って丁寧に解説している。
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読者の反響は大きい。「服がいかに情熱をこめて作られているか知り、きちんと買いたくなった」「自分も仕事を頑張ろうと思える」などのコメントが集まっている。ファッション業界で働く人からも「MDを扱ってくれてうれしい」と感謝の声があったという。
「自分を育ててくれた業界への恩返しの気持ち」が筆を動かす原動力だ。作品を通してファッション業界に憧れ、働きたいと思う人を増やして盛り上げたいとという。
林田さんは「キャリアで出会った全ての人を思い出しながら描いている。ファッション業界で働く人には、特に読んでもらいたい。まるで自分みたいだと、感情移入できるキャラクターが1人は見つかりますよ」と笑う。