シルクインナーブランド「バサラ」を運営するアトリエ・ワイは23年末、拠点を神奈川県葉山町から秋田県能代市二ツ井町へ移転し、自前で縫製工場と併設のコーヒースタンドを始めた。村上由祐代表はスタイリストを退き、生活の場も同地域に移した。
(大竹清臣)
危機感を強く感じ
拠点を移したのは、「ブランド運営をする中で、このままでは日本から〝縫製〟という文化が無くなってしまうという危機感を強く感じたから。物が当たり前にありふれているこの時代もそろそろ限界値。日本のよさでもある〝いいモノを長く大切に使う〟世の中作りをしたい」と村上代表は語る。
能代市は昔から縫製や物作りが盛んな地域で、以前バサラを生産していた縫製工場があった。技術力が高かったが19年に閉鎖。その後、様々な工場に生産依頼したものの、かつて表現できていた心のこもった美しいバサラを生み出すことができなかった。さらに、現在の日本が抱えている縫製工場の問題を目の当たりにして、「今、立ち上がらなければ」と強く感じ、縫製工場開設に取り組んだ。村上代表の熱意がかつての工場長の心を動かし、能代市に拠点を立ち上げた。
泊まれる縫製工場へ
「マジックアワーソーイング」と名付けた縫製工場は、築50年以上の民家をリノベーションしたもので、平均年齢70歳の女性3人が働く。いずれは泊まれる縫製工場にする予定だ。「少しずつ若い世代にその技術と経験、物を生み出す感動や興奮を伝えていけたら」と村上代表。「技術や経験のある時代を作った世代と、これからの時代を担う学生など若い世代や子供たちとの交流ができる場にしたい」と前向きだ。
これまでと変わらず、バサラとともに、日本製のシルクニットを使ったブランド「ニューライフインシルク」の運営を継続する。工場を立ち上げる際に支援を募ったクラウドファンディングサイトでも返礼品として両ブランドを活用した。