【記者の目】ベテラン記者が感じる業界環境の激変

2017/11/23 04:29 更新


 35年間、記者を続ける者から見ても今、経験のないドラスティックな変化の時代を迎えているなと思う。それには二つの背景がある。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)をはじめとする技術革新による業界環境の激変と、消費者の意識変化だろう。でも、これらに対応するのに、一番大切なことは、自らの存在価値を見つめ直し、その価値を共有し、価値が価格を上回ることだ。

(大阪編集部長・古川富雄)

企業の姿を見せる

 業界環境の変化は確実に進んでいる。技術革新は日進月歩だから、ファッション商品の企画、生産、物流、販売、サービスの仕組みや流れも変わらざるを得ない。もちろん大きな投資を伴うものもあるだろうが、今はそうでなくても使える選択肢は増えている。決定的に重要とされるオムニチャネル化についても、むしろ中小企業の方が転換しやすいとの見方もある。技術革新については恐れることなく、自社に見合った最適なものを取り入れればいいのではないか。

 消費者の変化は二つの現象があるが、それはリンクしている。一つは価格志向の継続だ。政府発表では長期の好況となっているが、消費者レベルで実感はない。ワーキングプアが引き続き1100万人を超え、可処分所得が伸び悩んでいる中では当然だろう。

 価格志向が強い一方で、エシカル(倫理的な)消費は確実に増えている。むしろ家計が厳しい中、消費に対しては慎重で、社会の健全な発展に役立つ消費とは何かと考えることにもなっている。フェアトレード製品製造販売、シサム工房のコンセプトは「お買い物とは、どんな社会に一票を投じるかということ」とする。

 では、こうした時代にあって何が重要か。それは、企業の存在価値を見つめ直して明確にすること。人々、社会に貢献できることは何なのか、あいまいなままでは存在すら難しくなってくるだろう。その上で、企業としてのあり方をオープンにし、ストレートな姿を見せることで支持を集めることが大事だ。これにより価値が価格を超えるという好循環を生み出す。流行や価格といったトレンドに左右されにくい体質も生まれる。

独自のポジション獲得

ニチマングループの直営店「グローバルシューズギャラリー」は、カフェ併設でゆっくり過ごせる

 変化に地道に対応してきた企業やブランドはある。その一つに、スピングルカンパニーの国産レザースニーカー「スピングルムーヴ」がある。02年に始まったこのブランドは、ないない尽くしからのスタートだった。当時はハイテクスニーカーがブームとなっていたが、同社にはこれをつくる設備がなかった。あったのは、バルカナイズ製法と呼ばれる伝統的な製法の自社工場。ゴム底とアッパーを接着し、硫黄を加えた釜で熱と圧力をかける製法は、日本でも数社しか残ってなかった。

 当初は知名度がなく、ソールがアッパー前部を巻き込むような独特のデザインがなかなか受け入れられなかった。それでもこの製法を続けるうちに、レザースニーカーで2万円台という独自のポジションを確立していく。

 同社は毎年1回、取引先専門店を本社、工場のある広島県府中市に一泊二日で招待する。工場を見てもらい、ブランドのこだわりを肌で感じてもらうとともに、ブランドへの要望、消費者の声などを聞く。こうした努力が取引先との絆を深め、ブランド価値を消費者とも共有することができている。

 本社近くにある直営店「グローバルシューズギャラリー」も価値観を広める役割を担う。スピングルカンパニーも含むニチマングループ全体のものづくり、製品を知ってもらう拠点だ。決して便利な場所ではないが、遠方からも多くの人が訪れる。

「フジロックフェスティバル」との協業レインポンチョ(ワールドパーティー)

 もう1社。レイングッズメーカー、ワールドパーティー(大阪市)もここ数年、価値観を共有する努力を続けて成長している。直営店を一つも持たないメーカーだが、消費者に企業のスタンスや考え方を積極的に示す。ホームページだけでなく、テレビCMを使うこともある野外フェスティバルへの協賛、被災地への支援、「セーブザチルドレン」をはじめとするCSR(社会的責任)活動などを企業活動の一環として位置付けている。

 昨年からは自社ブランド「キウ」の売り上げの一部を基金として積み上げ、災害時にすぐ支援できるよう「復興支援基金」キウプロジェクトを始めた。「天候に向き合う企業だから使命がある」と中村俊也社長は話す。自社だけでなく、共鳴する人や企業の参加も促している。

 ファッションが売れないと嘆く前に、やるべきことはある。


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