アウトドアウェアも自分好みにする時代⁉ ゴールドウインのカスタムサービスに手応え

2020/11/23 06:29 更新


3Dアバターと3Dサンプルを使って画面上で試着。3Dサンプルは重力によるたるみやしわもリアルに再現する

 ゴールドウインが提供する高機能アウターウェアのカスタマイズサービス「141(ワンフォーワン)カスタムズ」が好評だ。3Dスキャンシステムを用いて得た客の体形データを元に、サイズや色をカスタマイズできるもので、19年11月に渋谷パルコに開業した直営店「ザ・ノース・フェイスラボ」で始めた。現在、予約枠を開放するたび、すぐに埋まる状況が続く。人気の理由を記者が体験して探った。

(杉江潤平)

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価格は2倍でも

 予約して来店した客はまず、3Dスキャナーで全身を測定する。その後、専門スタッフが3Dシミュレーターを使いながらカウンセリングを開始。サイズサンプルの試着やカラー見本を確認して約1時間かけ仕様を決めていく。製作はゴールドウインの生産センターがある富山で行い、約30営業日で納品。店舗で受け取り、代金を支払う。

専用ウェアを着用し店内の3Dスキャニングマシーンで全身を測定。取得した体形情報から3Dアバターを生成する

 オーダー可能なモデルは7種。マウンテンジャケットやヌプシジャケットなど、いずれも「ザ・ノース・フェイス」では定番のもの。

驚くのは、選択できる色数の多さだ。表地のメーン部分と切り替え部分は各13~14色、裏地は9色、ロゴは28色、ファスナーは11色、フード部分のコードは11色、袖口部分の「ベルクロ」は10色、裾部分のボタンは3色から選べ、表地や裏地、ロゴの組み合わせだけでも4万通り以上。例えばバルトロライトジャケットなら、既製品では表地のメーン部分は黒・黄・ネイビー・ブラウン・ニュートープ(グレー調)で、切り替え部分は黒のみだが、141では色の組み合わせを反転したり、同色で統一したりできる。

生地スワッチや副資材の色見本を見ながら色を選ぶ。「バルトロライトジャケット」も可能になり利用者が急増した

 対応可能なサイズも幅広い。通常なら標準体形のものが5~6サイズある程度だが、141では標準だけでも3XSから5XLの11サイズになる。さらに、細身の人や胸回りのある人用にもそれぞれ11サイズあり、着丈と袖丈も調整できるようにしている。これにより「丈で選べば幅が太くなり、幅で合わせれば丈が短くなる」といったイレギュラーサイズの人にありがちな問題を解消している。

 利用者の多くはブランドのファン。価格はサイズカスタムが既製品の1.8倍、カラーカスタムが1.9倍、フルカスタムが2倍。通常5万5000円で販売しているバルトロの場合、フルカスタムでは11万円となり決して安くない。しかし、約6割の客がフルカスタムでオーダーしている。

 予約は一日3枠。1~2週間ごとに募集するが、即日でほぼすべての枠が埋まる。既にリピーターも現れており、新規モデルが出るたび複数モデルをそれぞれ注文するカップル客までいる。

渋谷パルコ2階にある「ザ・ノース・フェイスラボ」。現在141カスタムズを提供する唯一の店舗だ

特別感ある接客

 141が人気なのは、色やサイズを自分仕様にできる点だけが理由ではない。じっくりと接客を受けられ、ブランドを堪能できることも大きな要素だ。141を企画した大坪岳人ザ・ノース・フェイス事業一部副部長は、「お客様は1時間強の予約時間をフルに使って、店員とのコミュニケーションを楽しんでいる。じっくりとした接客を約束していることがサービスの魅力になっている」と話す。事実、141では専門スタッフが服作りのイロハ、ブランドのうんちく、色選びや組み合わせの原則などを伝え、利用者からの要望も聞いている。利用者は既存の店舗やECでは得難い体験ができる。

 今後は、客とのコミュニケーションをさらに強化する。9月下旬からは、縫製に関わったスタッフ直筆の名前入りサンクスレターを納品時に同封している。

 社内の他ブランドで141を採用する構想もあるが、「まだ運営上の知見を蓄積していく段階」(大坪氏)として急ぐつもりはない。また、多店舗化にはカスタムオーダーにまつわる専門知識を持った販売員の存在が不可欠。そのため、当面はスタッフの育成に力を入れていく。

■141の狙いと意義 仕掛け人の大坪氏に聞く

長く着続けてもらいたい

大坪氏

 購入された製品を長く愛着を持って着続けてもらうには、買い物時の瞬間的な高揚感より、製品そのものに対する高い満足度と納得感が必要です。

 アウトドアウェアが持つ機能を最大限発揮する場合、サイズやフィット感がとても重要ですが、これまでは既製のサイズに着る人が合わせていました。そこで、着る人の用途や着方にウェアの着用感を合わせられるように141を企画しました。カスタムによりウェアが限りなく機能し、着用者の満足度を高められると思ったのです。

 資材を含めて材料はあらかじめストックしなければならないので、在庫リスクはあります。しかしカスタマイズできる7品番は、過去20年ほど販売しているロングセラーモデル。たとえ141で使用しなかったとしても、既製品として転用できるので問題ありません。ニーズが多様化する中、半年から1年前に高価な製品を生産してストックすることに比べれば、製品在庫は究極にミニマイズできるのです。

≪体験してみて…≫

 記者は肩幅が広いが、腕は短い。アウトドアウェアは腕を上げた際に手首が出過ぎないようもともと長めに設計されているが、街着として着るには持て余していた。だから3Dスキャンを元に、着丈はそのままで袖を2センチ短くしてもらえたのは良かった。

 アウトドアウェアでは世界初と言われるオーダーサービスを実現できたのは、ゴールドウインに企画・開発から製造、販売までの一気通貫の機能があるからだ。

 特に研究開発施設の「ゴールドウインテックラボ」の存在は大きく、141のスタート段階では同施設の技術者が店舗に常駐し、販売員をレクチャーしたという。

 最新テクノロジーを駆使したサービスだが、販売員とじっくりコミュニケーションを楽しめるのが魅力というのも面白い。新型コロナウイルスの影響で、客はフィジカルのサービスに飢えている。141は予約制のため、「密」を避けた対面接客が可能なので、正に新しい生活様式に打ってつけのサービスと言えるだろう。

(繊研新聞本紙20年10月23日付)

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