写真家と映画と...etc.(宇佐美浩子)

2021/04/07 06:00 更新


新生活がスタートする日本の4月。そして世界的にも「新しい生活様式」が必須となった今。

様々なジャンルで新たな試みがなされ、そしてスタンダードになっていくことを実感する。

たとえば昨今、増えているのがオンラインでも楽しめる展覧会。

もちろん「リアル」だからこその感動は計り知れないが、その一方で「ニューノーマル」だからこその魅力もある。

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その一つが、昨年10月24日より4月25日まで、カルティエ現代美術財団が開催している、世界的著名人からも愛され、80代の今も活動を続ける映画監督アルタヴァスト・ペレシャンの『Nature』展。(コロナ禍による開館の事前確認を!)

その一環として、現在公開中の進化型オンラインプロジェクト「Encounter with Artavazd Pelechian」(アルタヴァスト・ペレシャンとの出会い)は、新たな発見と感動を呼ぶ。

1938年にアルメニアで誕生してから2020年、当財団で初公開となった27年ぶりの新作「Nature」を制作するまでのヒューマンヒストリーとも言うべき当企画。その濃厚な内容は、貴重な文書や写真、そしてこれまでの映画作品10本に加え、映画をはじめアートほか幅広いジャンルの関係者からのメッセージなどがアップデートされ、私のようなビギナーにとっても興味深く楽しめる。

ちなみに前述の「Nature」完成までに要した歳月は、なんと15年とのこと!

参考までに…

おそらく筆者をはじめ音楽好きには、ミュージシャンのパティ・スミスのライブ映像が、監督との距離感をぐっと縮めてくれそう。その背景には、2014年に当財団で上映された監督作を鑑賞した彼女が、深く感銘を受け、自身のライブでオマージュを捧げたという馴れ初めがある。


パリ×アルメニアから始まった4月最初の「CINEMATIC JOURNEY」。「写真家と映画と...etc.」をテーマに、異文化交流的旅をご一緒に!

それでは早速、次なる目的地、モロッコへ。


❝映画は訪れたこともない世界を知ることができる❞

と、かつて繊研新聞「カルチャー」記事の取材でお目にかかったアップリンクの浅井社長の言葉に、「同感です!」と即答したことを覚えている。

そもそもこのコラムのタイトル「CINEMATIC JOURNEY」も、そんな私の思いを込めており…

というわけで、冒頭の話題にも通じる、今回の訪問先はモロッコの山奥、高アトラス南西地域。

かの地に暮らすアマズィーグ人の10代の姉妹がヒロインとして登場するドキュメンタリー『ハウス・イン・ザ・フィールズ』。結婚を控えて学校を辞めざる負えない姉、そして弁護士を夢見る妹。

フィナーレへと向かう中、美しく着飾った花嫁姿の姉、未来への不安と寂しさがつのる表情が切ない妹。

それぞれの心情が、ヒシヒシと伝わってくる。


数千年に及ぶ彼ら民族の歴史のほとんどが口承で伝えられてきたという伝統を、視聴覚形態で引き継ぎ、現状をリアルに記録、公開することにチャレンジしたという本作。

監督は、世界的女性建築家として歴史にその名を刻んだザハ・ハディドの姪タラ・ハディド。

写真家としても活躍する彼女が「7年間にわたり、寝食を共にして、農民たちを撮影した」という記述を本作資料で目にし、脱帽した。


『ハウス・イン・ザ・フィールズ』

4月9日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開



ここで上記作品の公開劇場となる「アップリンク」にまつわるトリビア的話題を!

長年にわたり映画の世界愛してきたことで知られるアニエスベーが、アップリンクの劇場を通して共有することを目的に、アップリンク京都とパートナーシップ契約を結んでいることをご存知ですか?

☑劇場に足を運んだことのある方なら、目にしているはずのブランドのシンボルの一つ”b.マーク”のネオンサイン。

☑今年2月26日に再オープン(設備トラブルにより一時臨時休業していた)と共にスタートした映像ギャラリーでの特別展示。

☑3月より開始したアニエスベーが映画をセレクトするスペシャルな通年企画「アニエスベー・ムービーセレクション・ディレクターズシリーズ」。

などなど、期待度満載の企画が今後も続々登場するとのこと。

ちなみに、日本においてアニエスベーが映画館と年間契約を行うのは今回が初の試み。


思えば、デザイナーのアニエスベーさんもご自身で写真撮影をされ、また映画監督もされている。そうした縁も伴い、前述のパートナーシップが実現したと聞く。故に、今回のテーマ「写真家と映画と...etc.」は、まさにアニエスさんにピッタリとも言える。

一方、この方は著名な写真家にして、初の映画監督作を完成した。

上田義彦。

日本の葉山に佇む、美しい海を臨む一軒家を舞台に、構想から15年の歳月をかけ、脚本、撮影、編集も自ら手掛け『椿の庭』が、遂に公開になる。(コロナ禍により昨夏から、今春へと延期になった)


四季折々の景色の移ろいも魅力的な庭を有す一軒家の主を、日本映画界を代表する女優、富司純子。

その主と共に暮らす亡き娘の忘れ形見となる孫娘役を、昨今、日本でも注目の若手、シム・ウンギョンが好演。そして、主のもう一人の娘役に鈴木京香を配し、絶妙なトライアングルを奏でている。

またスクリーンを彩る椿や藤といった花々に加え、富司さんの着物コレクションの数々。何れもその存在感に魅了される。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 


『椿の庭』

4月9日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 

©2020“A Garden of Camellias” film partner


「写真家と映画と...etc.」をテーマに、異文化交流的旅を続けてきた今回の「CINEMATIC JOURNEY」。旅の終着点は2018年秋、「巨匠はみんな植物が好き」にてご紹介した映画『アラン・デュカス 宮廷のレストラン』の「つづき」とも称したい話題をここに。

つい先日、「日仏文化交流事業の一環」という、未来に続く熱き願いのもと発表になった「Alain Ducasse Sparkling Sake」(アラン・デュカス スパークリング サケ)

そのネーミングからもご想像がつく通り、アラン・デュカスと世界を舞台に展開する日本酒のブランド「七賢」が、世界で初の試みとなる貴醸酒の瓶内二次発酵による、桜樽を用いたスパークリング日本酒を共同で開発したというロマンあふれる話題!

さまざまな思いを込めた「乾杯」シーンを演出してくれるに違いない。


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うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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