【記者の目】コロナ禍で多様化するSNS活用 最適手段で情報伝達

2021/04/12 06:30 更新


「ジャーナルスタンダード」は公式ユーチューブチャンネルで新レーベルの商品企画会議などを配信している

 新型コロナウイルス感染拡大以降、国内のファッションブランドや小売店のSNS活用が多様化している。記者の体感では、動画の「ユーチューブ」や文章主体の「ノート」を利用する企業・個人が増えた印象を持つ。21年1月末以降は、音声会話の「クラブハウス」も急拡大している。コロナ禍で実店舗への来店機会が減ると同時に、ファッションの購入がオンラインへと移りつつあるなか、各SNSの特徴や顧客属性を見極めながら、最適な手段で情報を届ける必要性が一層高まっている。

(友森克樹=東京編集部メンズカジュアル専門店担当)

新客層にアプローチ

 20年は、新たにユーチューブチャンネルを開設したり、刷新する動きが目立った。インスタグラムでの動画配信に比べて、過去の動画を振り返りやすい点にメリットを感じているほか、新規客層へのアプローチや既存のファンとの関係強化を目的としている。

 レディスブランド「アメリ」を運営するビーストーンは20年4月下旬、ユーチューブチャンネル「ノー・ルールズ・フォー」を開設した。新規客層の獲得や認知拡大に加え、物作りの裏側に密着した動画や黒石奈央子社長のパーソナルな部分も見せる動画を配信する。既存のファンがブランドへの愛情を一層深められるコンテンツを意識している。チャンネル登録者数は既に約4・5万人と急伸している。

 中心客層は30代だが、視聴者層は20~30代とやや年齢が低く、新規客への訴求に手応えを感じている。インスタグラム経由でユーチューブに流入する人が多いようだ。動画で紹介した商品の売れ行きが配信後に伸びるなど、効果も表れているという。

 ベイクルーズグループのセレクトショップ「ジャーナルスタンダード」は20年9月末、ユーチューブチャンネルを刷新、チャンネル名「ジャーナルジャーニー」として再始動した。16年末からブランディングを目的とするビジュアル重視の販促動画を中心に配信を続けていたが、現在は新規客層、特に若い世代への訴求を狙い、親しみやすい動画配信に力を入れている。

 直近では、2月1日に発売した新レーベルの好スタートに大きく貢献した。発売に先駆けて新商品の企画会議を複数回配信した。動画1本あたりの再生時間は40分~1時間と長めで、各回の再生回数は極端に多いとは言えないが、発売日には同商品を目掛けて来店する客が行列を作るほど。ユーチューブを活用して狙った客層に対し濃く深い情報を届けることに成功した。

 ファッション販売の新たなプラットフォームとして存在感を高めているのが、文章や画像、音声、動画などを配信できるノートだ。14年のスタート以降、利用者数を着実に伸ばし、コロナ禍で急増した。20年5月の月間アクティブユーザー数は6300万超。

 ファッション関連では、EC限定ブランドやDtoC(メーカー直販)ブランドのディレクターやファッション企業の経営者などの利用が目立つ。トウキョウベースの谷正人代表取締役CEO(最高経営責任者)も昨年末、アカウントを開設した。

 同SNSを活用してファッションを販売する際に注目したいのが、ノート上でECの商品を表示できる機能「ノートフォーショッピング」と企業や個人がECサイトで販売している商品を自身のノート上で一覧表示できる「ストア」機能だ。両機能を合わせて約15のECプラットフォームと連携している。文章や画像、動画などを駆使しながら自社のブランド・商品を説明しつつ、提携するECサイトへ遷移させることができるため、ストーリーコマースがノート上で実現できる。

 21年1月には、ネットショップ作成サービス「ベイス」を提供するベイスと資本業務提携を締結した。ノートの利用者とベイスの加盟店のファン形成や集客、販路の拡大など、両社の顧客に提供する価値の最大化が目的。今後はノートとベイスで開設したネットショップ相互の導線やベイス加盟店が管理画面からノートに記事を投稿できる機能、ノートのショッピングカテゴリーの記事が集まるメディアの活性化など、相互の連携を高める施策を予定している。

「ノート」と「ベイス」は21年1月、資本業務提携を結んだ

新たなSNSに期待

 期待が寄せられるのは、米国発の招待制音声会話SNS「クラブハウス」だ。21年1月末からファッションビジネス業界に従事する人たちの間で利用者が急拡大している。国内は現在、英語表記のiOSアプリのみで、音声配信者が聴講者から課金できる仕組みもない。プロフィル欄に企業URLなどの記載はできるが、タップしてリンクすることはできず、拡張性といえば、ツイッターとインスタグラムのアカウントがプロフィル欄に連携できる程度だ。

 今後は大幅なサービス強化が予定されている。クラブハウスの創業者2人と運営チームが現地時間1月24日に更新したブログには、Androidアプリの開発を間もなく開始することや、チップやチケット、サブスクリプション機能の導入に関する記載があった。今後どの企業や個人がいち速くクラブハウスを有効活用するか注目が高まる。

友森克樹=東京編集部メンズカジュアル専門店担当

(繊研新聞本紙21年2月22日付)

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