ウール生地・製品のカサギ・ウールテキスタイルズ(島根県大田市)は、国内で羊の飼育から手掛ける珍しいメーカーだ。デザイナーの笠木真衣さんと笠木真人さん夫妻が島根に移住したのを機に牧羊を始め、現在23頭まで増えた。刈った毛は国内の協力工場で紡績や織布を委託、ざっくりした味わい深い風合いが新鮮に受け止められている。
(中村恵生)
大山隠岐国立公園にある三瓶山(さんべさん)のふもとに夫妻が移住したのは5年前のこと。それまでは関東を拠点に真衣さんが手紡ぎでウールのクラフト製品を手掛けていたが、移住を機に羊の飼育を始めた。
羊毛向けは一般的にメリノ種などが知られるが、日本の気候に適して飼いやすいコリデール種を譲り受け、手探りで牧羊をスタート。1.5ヘクタールで放牧し、5年で23頭まで増やした。毛刈りは主に真人さんの仕事だが、海外のユーチューブ動画を見てやり方を学び、今では「だいぶうまくなりました」と話す。
もともとクラフト作家だった真衣さんだが、牧羊を始めてからは手作業では限度があるため、工業製品としての道を模索。尾州産地の紡績工場との出合いがあり、10番手までの糸を作ってもらっている。織りは尾州のほか、綿交織の生地を播州の工場に依頼するなど開拓していった。真衣さんは「機械で作るけど、どこかクラフト感を表現したい」と言い、通常80回転で動かすレピア織機を20回転まで速度を落として織ってもらうほどの徹底ぶり。生地の価格は1メートル2万5000円などと高額だ。
コリデール種の毛は、繊維経が約27ミクロンとメリノ種より太い。このため、生地のざっくりした風合いが特徴だ。取り切れなかった夾雑(きょうざつ)物がネップのように混ざったテキスタイルは味わい深く、愛知県一宮市で開かれているジャパン・テキスタイル・コンテストで20年のグランプリに選出されて評価を得た。その縁でプルミエール・ヴィジョン・パリの特設エリア「メゾン・デクセプション」にも出展したことがあり、海外バイヤーからも新鮮に受け止められた。
和歌山のニッターに依頼し、無縫製横編み機「ホールガーメント」で作ったメリノウール混の靴下は、1足1時間をかけた肉厚な仕上がり。先丸が税込み6600円、5本指が7700円で、自社オンラインショップやECサイトで販売するほか、ふるさと納税の返礼品にも採用されている。
今後は100頭を視野に飼育数を増やしていきたい考えで、糸売りで使ってもらえる先も開拓していく。